表紙の裏 3

 小沢信男さんが「みすず」に登場するというのは、みすずの新しい路線であります。
他の出版社からうつられた編集者の方が、みすずの幅をひろげていることになってい
ます。
 小沢信男さんが表紙裏のページを最初に担当されたのは、2011年4月号とあります。
小沢さんのコラムは、最初に発句のように俳人の句がおかれ、その句から喚起される
話題が展開され、最後も同じ俳人の句によってしめられるという体裁になっています。
 一番最初に登場するのは、高浜虚子さんであります。
「 入学の子の顔頓に大人びし 虚子
  四月。やはり高浜虚子からはじめよう。私が小学校にあがったのは昭和九年の大昔
で、もはや忘却のかなただが、ひとつだけ、その場の情景までおぼろげにうかんでくる
ことがある。入学前に学校によばれて面接があった。付添いの母とも離れ、たぶん、
六年生の大人びた少女に伴われて教室に入り、試問を受けた。」
 これが、初回の書き出しであります。「やはり高浜虚子から」といわれても、こちら
は、どうして高浜虚子からであるのかわかりません。
 小学校に入る前に学校に呼ばれて試問を受けたとありますが、たしかに入る前に学校
に呼ばれることはあったように思いますが、その時に試問を受けるなんてことはあった
のでしょうか。当方のほうが、小沢さんより二回りも若いというのに、こちらのほうは
記憶があいまいになっています。小さな学校で、ほとんど顔見知りのような新入生たち
でありましたので、学校で試問をする必要がなかったのかもしれませんです。
 小沢さんのコラムは、この試問について展開するのですが、最後は、次のように
なります。
「それにして高浜虚子はすごいひとですね。
 一を知って二を知らぬなり卒業す 虚子」
「やはり高浜虚子からはじめようから」「それにしても高浜虚子はすごい人ですね。」
となる間に、小沢さんのコラムははさまるのですが、そこに高浜虚子さんにかかわる
記述は一切なしでありますので、冒頭の句と結語の句を判じ物のように読みとかなく
てはいけないようです。