みみずく先生の著作を久しぶりに手にしてみますと、ほとんど初めて読むような新鮮
な感覚であります。しかも、今回は四方田犬彦「先生とわたし」をガイドブックにする
のでありますからね。
青土社からでた三冊目は「みみずく古本市」であります。
- 作者: 由良君美
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1984/06
- メディア: ?
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由良さんの世界へのガイドブック「先生とわたし」には、この本のことが次のように
あります。
「由良君美は、歯に衣着せない書評家としても、この時期知られるようになっていた。
『みみずく古本市』には、1960年代後半から80年代前半まで80点にわたる書評が収録
されている。樋口一葉から吉田健一まで、日本語のなかの文体の妙を愛でた短文もあ
れば、花田清輝や山口昌男といった同時代人へのオマージュもある。だが、この書物
のなかでもっとも異彩を放っているのは、ある種の翻訳書に対する罵倒に近い批判で
ある。」(四方田「先生とわたし」より)
「ある種の翻訳書に対する罵倒に近い批判」というのを見て思いだすのは、その昔
の林達夫さんによる書評であります。林達夫と由良君美さんというと、精神の貴族性
やそのダンディズムにおいて、すこしかぶるところがあるように思います。
しかし、生き方のスタイルの見事さにおいて由良さんは、林さんの足許にも及ばない
ようにも思います。よくいえば、由良さんのほうは生き方のスタイルが破滅型であった
ということでしょうか。(まわりの人にとっては、迷惑なことでもありますが。)
林達夫著作集2「精神史への探求」の書評(東京新聞への寄稿)が、この「古本市」
には収録されています。
「我が国に批評がなりたちうることの可能性とその至難さとを、身を以て生存の軌跡の
うちに示した人がいたとすれば、林氏は疑いもなくその一人である。それだけに思想史
家を以て任ぜられるであろう氏の、思想史関係の業績の集大成たるべきこの巻の薄さに
唖然とする者は評者だけではあるまい。・・・・
学の境界を自在に出入りされる氏の観念の冒険に眩暈したのか、編集側の旧守依然
たるビジョンホーリングは氏にとって気の毒である。」
「編集側の旧守依然」というのは、本来この巻の結びにおかれるのがふさわしい林さん
の「精神史 ー 一つの方法序説」が、どういうわけか別の「芸術」の巻におかれて
いることを指していて、これが由良さんには、編集者たちはわかってないなとなった
ものであります。
林達夫著作集には研究ノートという冊子が、各巻についています。これには長老の
思い出話から選ばれた若手研究者の文章まで収録されているのですが、由良さんには
声がかからなかったようで、そのことも編集方針に対する苦言につながっているので
しょうか。