セ・パ さよならプロ野球8

 主人公の敏男さんは、ある日の午後に埠頭行きのバスに乗って市の中心部から工場
地帯に入って行きます。川崎の工場地帯でありますから、小さな町工場ではなく、日本
を代表する企業の工場群です。
「敏男は朝の満員のバスを思いだし、通常ならそれらの建物の奥に、何千人、いや何万
人の労働者がいるのだろうと想像し、またしてもロッテの不人気に結びつけて考えよう
とした。彼らも殆どがセのファンなのか。」
 川崎の大企業の工場で働く労働者たちは、自分たちの会社の社会人野球チームを応援
するために川崎球場へと足を運ぶかもしれませんが、ロッテの応援のためには足を向け
なかったようであります。それは、日本の高度成長が「「自分はセリーグにいると思っ
て暮らす」人を育てたからかもしれません。
 一緒に暮らす記代さんから、「ロッテなんて応援するのやめなよ」といわれたのに
対して、次のように答えます。
「なんとなく俺にそっくりなんだな。俺はどうみてもセ・リーグじゃないし、チームで
いえばロッテだ。記代だって川崎が好きなら、江川や原を応援するのはやめろよ。」
 ちなみにいえば、記代さんは青森の生まれで、実家はりんご農家をしているとありま
した。敏男さんの出身地は、埼玉県加須市となっています。
パ・リーグは大変だ、と敏男はスクラップブックの記事を増やした。西宮球場は女性
を入場料無料にしたというし、南海の新監督穴吹はヘッドコーチの藤原と連れだって、
堺市役所や岸和田市役所など南海沿線の十二市町をセールス行脚して廻った。なにしろ
昨年度の大阪球場の入場者は四十四万人で、巨人軍の十試合分にも満たないのだ。
阪急は六十一万人、近鉄は五十七万人である。」
 この時代のロッテは年間どのくらいの動員数であったのでしょう。この作品中には、
川崎球場の外野席は客がちらほらとしかいなくて、六月の半ばだというのに、秋の
消化試合のようだ。ホームランボールを貰うのが目的の男の子たちが席をうろうろと
歩きまわる。」とあります。