セ・パ さよならプロ野球7

 できれば働かずにおまんまにありつくことができればいいとは思いますが、そんなに
うまい話は、ほとんどないことであります。吉川良さんの小説「セ・パ さよならプロ
野球」の主人公 敏男さんは、二十五年間勤めていた小さな会社が、吸収合併されたの
を機に、会社を退社。その後、仕事につく気分になれない時に、妻にあいそをつかれて
離婚、妻は息子を連れて家をでて、自宅を慰謝料支払いのために売却し、残った金が
当面の生活資金となりました。
「当分仕事につく意志のない敏男が記代と約束したのは、月に十万円を払い、役目は
炊事、洗濯、掃除のいっさいを引き受けることだ。」
 記代さんはあいまいな飲み屋で働いている女性ですし、定職にもつかずぶらぶらして
いるのですから、ヒモと見られても仕方がないのですが、女性(とその息子)との共同
生活というものです。
プロ野球の記事を切り抜くのが敏男の用事になった。記代と正人との暮らしに閉じこ
もっている敏男は、スポーツ新聞でだけ世間とつながっているようでもある。切り抜く
のはロッテに関したものに限ろうとしたが、今のところ村田以外のニュースは殆どなく、
別のも加えた。二シーズン制を一シーズン制に戻したのにプレーオフを企むパリーグや、
日本シリーズにDH制を採用するなら、日本シリーズをボイコットすると気色ばむセリ
ーグ。それに今季でユニホームを脱ぐ選手の顔も貼っておかねばと敏男は思う。」
 83年のシーズンに入る前のスポーツ紙であります。この時のロッテの話題は、エース
である村田のトレード話でありました。(結局、村田は移籍しなかったのですが。)
村田までもがロッテに愛想尽かしをしていたのでありましたか。
「『村田がさ。セへ行きたいのは判るっていう人が多いね。』
 『それはそうさ。今さ、日本中でさ、自分はセリーグにいると思って暮らしているん
  だ。』
 『パは西武が頼りだな』」
 「自分はセリーグにいると思って暮らす」であります。もちろん、主人公の敏男さんは
まったくそうは思っていないのであります。