佐山哲郎さんの「句集 娑婆娑婆」に寄せた小沢信男さんの跋文は「句集 娑婆娑婆を
ひらいて」とあります。
書き出しは、次のようになります。
「ひらくといきなり、こんな句に出会います。
二ン月の荷に根菜とコンサイス
なんだこれは、ただの語呂合わせではないか。二と荷、根菜とコンサイス。それだけ
のことなのに、大根・人参・蕪などの冬野菜類と、なぜか三省堂英和辞典の荷箱を一緒
に積み込んだトラックが、目の前を通過してゆく。春の新学期がちかいのでした。
この句集の、これが特徴の一つらしい。続々とでてくること。
レプリカの巨鯨春風駘蕩区
スカートで夫の昼寝をマタイ伝
朽ち果てしその蜩の寺を継ぐ
語呂合わせの、この味わいよ。日本語に同音異義が多いことを、肯定する。これを弱点
とする説をまま聞くが、むしろ美点としてひきうける。すると十七文字が、二十字にも
三十字にもふえて、なるほどいにしえの掛詞の現代化だ。
たぶん、そういうことです。べつだん作者の意見を聞いてもいないけれども。」
佐山さんは、現在63歳で、寺を継いで16年ということですので、40代後半になってい
たようです。さぞかし檀家さんをはらはらさせ、先代の住職に肩身のせまい思いをさせた
でありましょう。
小沢信男さんによりますと、次のようになります。
「 朽ち果てしその蜩の寺を継ぐ
その日暮らしの貧乏寺にやっと跡継ぎがもどってきて、おりからカナカナが天地を聾し
て鳴きしきるのでした。」