階級社会における良家というのは、執事とか召使いというのがいることが生活の前提
であるようですから、日常生活の雑事は、我が事にあらずであったのでしょう。
19世紀のイギリス料理が、世界に冠たるものとならなかったのは、こうしたことが背景
にあったのでしょうか。
小野二郎さんの「紅茶を受皿で」には、「オーウェル『イギリス料理の擁護』の擁護」と
いう文章が収録されていますが、これによりますとG・オーウェルは、「イギリス料理の
擁護」という文章で、次のように書いているとのことです。
「 イギリス料理が世界最低だということはよく聞く話だし、イギリス人自身さえそう
いっている。ただだめなだけではなく、人まねだということになっていて、云々・・・」
イギリスのアフタヌーンティーというのは、けっこうおしゃれな印象を受けるのですが、
あれは食事ではないですものね。食事で良くきくのは、フィッシュアンドチップスという
ものですが、あれはファストフードでしょうか。
小野さんは、「ビートン夫人の料理術」のなかで「ビートン夫人が提案している一週間
のディナーの献立の一部を紹介」しています。
「 日曜日 澄んだグレイブ・スープ(いわゆるコンソメ)
羊の腰肉のロースト
浜菜
じゃがいも
ルーバーブ(食用大黄)のタート
グラス入りのカスタード(タートにかけるのだろう)
月曜日 スケート(えいの一種)の切り身とケイパー・ソース
ボイルした子牛の膝肉と米
羊肉の冷製
煮たルーバーブと焼いたカスタード・プディング
水曜日 舌平目のフライとオランダ・ソース
ボイルド・ビーフと人参
牛脂入り茹でだんご(スエット・ダンブリング)
レモン・プディング
これだけではわからないが、たとえば火曜日にも前日の残りのコールド・マトンから
つくった料理があり、木曜日は前日のボイルド・ビーフの残りをコールド・ビーフとして
出すというように、毎日が何かでつながっている。デザートにはプディングが大部分を占
め、パイ(タート)。イースト・ダンブリングなるものもある。総じて新鮮な果物と
グリーン・サラドがないのが目につく。これは実状を反映していて、当時のあらゆる階層
のイギリス人が飲む緩下剤の量たるやたいへんなものだったという。」
中流といわれる家庭の日常の食事のおすすめがこうであるということになると、労働者
階級の食事はさらに貧しいということになります。