ことしは辛卯 4

 卯年にちなんでうさぎを話題としています。
 本日は、小説に登場するうさぎにしようか、それとも神話的な世界のうさぎに
しようかと思っておりました。
 うさぎに強いこだわりを持つ作家の本を手にしていましたら、当方が思い浮かべた
神話的な世界のうさぎに言及されていました。
というわけで、まずはそのところからの引用です。
山口昌男さんの紹介になるアフリカのいわゆるトリックスターとしての兎。世界をよみ
がえらせるための仕掛人として、兎はいつも一役買っていた。」
 ちょっともったいをつけて、これを引用している作家の名前は、本日は伏しておき
ましょう。このくだりがある文章のタイトルは「使者としての少女 兎穴の彼方に」と
いうものでありますから、これをみただけでも、あの作家ねとおわかりになります
でしょう。
 山口昌男さんの紹介になる「トリックスターとしての兎」というのは、「道化の民俗
学」(新潮社刊)にあるものですが、一般的に知られるようになったのは「本の神話学」
中央公論社)に収録されている「モーツアルト第三世界」によってです。
 この文章の書き出しは、次のようになります。
「野兎のアギュは怠け者であったから、その時、大樹の洞穴の中で惰眠をむさぼっていた。
町では、怪獣の大群が押しよせて、町の人間も動物も一人残らず呑み込んでしまっていた
のである。夕方になって目が醒めた野兎は、町が破壊され、人は一人残らず姿を消して、
ただ怪獣が町を徘徊しているのを知った。・・これはいかんというわけで、野兎は創造神
チドンの援けをかりるべく旅にでる。さまざまの危難に遭遇したのちに、野兎はチドンに
会うことができた。門番の犬が仕掛けたテストに合格していたので、チドンは野兎に災厄
を克服して町を救うべく三つの”世界の卵”を与える。これを持って野兎は町へ帰る。
二つは、帰る途上に使ってしまった。最後の一つは、怪獣との決戦にあたって、投げつけ
て怪獣を退治した。怪獣の腹のなかから町の人、動物が出てきた。町の要人たちは、野兎
に王になってくれるよう要請した。野兎は何も言わず、卵の殻の中に入ってしまった。
人々はドラムを奏して請願した。少時あって、野兎は町の境界外から姿を現した。人々は
奏楽をもって野兎を迎え最初の王になってもらった。」
 少々長い引用となりましたが、この野兎の行動が、モーツアルトのオペラのヒーロー
を思いおこさせるというのが山口理論のベースです。
「 この種のトリックスター説話が、アフリカの昔話、神話の根幹的な部分を形成して
おり、アメリカ黒人に語り伝えられた、いらずら者であるが反権力の想像力の実体化で
あるリーマス爺やの兎が、このようなアフリカの民俗的想像力に根をもっている・・」
 年頭恒例である経済界のトップに、今年はどのような年にというインタビューを拝見し
ましたが「卯年」だから「飛躍」というような回答はあったようですが、「兎のトリック
スター的な役割にあやかって、よみがえらせたい」というものは見あたらずでした。
こういう発想は、若いベンチャー企業のオーナーに期待することにしましょう。