老年の文学

 今からほんの30年程前には、80歳の長老作家が意欲的な長編小説を発表したら、
世の注目を浴びたものです。この時に、当方の頭にあるのは、石川淳さんの「狂風記
でありますが、当時の「すばる」に連載して上下2冊の単行本となったと話題になった
ものです。
 その時に拍手喝采していた丸谷才一さんもすでに84歳で、たぶん書き綴っているで
あろう長編小説が完成し、発表した暁には、石川淳さんの年齢を超えるということに
なるのでしょう。日本全体としては百歳を超えた人が何万人にもなろうというのであり
ますからして、90歳を超える現役作家というのも、これからは珍しい存在ではなくな
るでしょうか。
 高齢の人気作家ということでは、先月に亡くなった庄野潤三さんがいましたが86歳
くらいまでは作品を発表していたようでありますし、音楽批評の吉田秀和さんも一時は
文章を発表する気力がなくなったといっておられたのですが、見事に復活されて、
96歳をこえた今もラジオ番組への出演と文芸誌への寄稿が続いています。
長命で活発な活動を続けている、こうした人たちをみますと、後にひかえる老人予備軍
としては大いに力づけられることであります。
 今月の新刊として、そうした老年の文学作品がでています。(書影は単行本のもの
ですが、新刊は新潮文庫で、表紙カバーのイメージはほぼ同じです。)

残光

残光

 庄野潤三さんの「けい子ちゃんのゆかた」の新潮文庫の帯には、「ここには夫婦の
晩年の理想の生活がある」と記されているのですが、小島信夫さんの「残光」の帯は、
「九十歳作家の遺作、そして最高傑作」とあります。
 気になる作家「小島信夫」さんの作品でありますし、「最高傑作」かどうかは別に
してこれは読んでおかなくてはと購入したのであります。
 小島信夫さんは、小生ひいきの小沢信男さん(小沢さんも、「東京骨灰紀行」を書き
おろしで発表したことです。82歳)と変換ミスをしやすい名前でありまして、最近で
は小島よしおともまぎらわしいことです。いつからか奇妙な長編小説を発表するように
なって、長編小説が好きな当方は飛びついたのでありますが、これがほんとに頭に
はいっていかないのでありますね。「別れる理由」「菅野満子の手紙」などを購入して
いるのですが、いまだに読了にいたっておりません。頭がこれ以上固くなったら、
これらの作品はますます読めなくなるような気がしますので、「残光」をきっかけに、
再度チャレンジにむけて気合いをいれなくてはいけないのかもしれません。