手紙が語る戦争2

 小生は、もともと手紙を書くのが好きでありました。いまは無粋なeメール派と
なっていますが、いまでもかばんにはハガキと万年筆と切手をしのばせて、旅先など
からは自宅にあててハガキを投函するのでありました。小生は学生の頃から、仕送りを
してもらった時、領収書かわりにハガキを親元におくっておりましたのですが、たい
したことは書いていないのでしょうが、70年からの数年間にどのようなことを感じて
いたのか興味があることです。
 あの時代に、晶文社から刊行されていた「ベンヤミン著作集」の書簡篇の帯には、
ベンヤミンは手紙の人とありましたが、小生は「はがきの人」とうそぶいておりました。
そんなこんなで、書簡体の小説とか、書簡集というのが好きでありました。
一番好きな小説は、長谷川四郎さんの「古い手紙より」いうものですが、これは
すでに、拙ブログ 2007-06-14 「古い手紙より」でとりあげているのでした。
 この小説は、もちろんフィクションですが、この作品の背景にはついて、作者の
長谷川四郎さんは、全集第2巻の「作者ノート」で次のように書いています。
「 義弟・つまり女房の弟は南方で戦死して遺骨が届けられたが、それは一個の
小箱で、中にはなんにもはいっていなかった。送られてくる途中で、海に落ちて、
紛失したかのようだった。
 私の義妹・つまり女房の妹は兄の戦死状況を知るべく、知っていそうな人々に
あてて、幾通かの手紙を書いてだしたが、イエスの返答はえられなかった。
そのうち、その妹じしんが家出し(蒸発)てしまった。・・・・・
 この妹がいなくなってから、彼女の出した手紙への返事が一つ配達されてきた。
それが『古い手紙から』の最後にかかげた手紙である。私はその全文をそっくりその
まま書きうつした。それから恋文のつもりで、義弟にあてられた女性の手紙を想像
して書いたのだ。・・・・」 
 戦争の頃には、このような手紙のやりとりが現実にあったのでしょう。
「 昼尚暗キジャングルノ中ニ悪疫ト戦ヒ乍ラ何ノ目的モ無ク死 ニ追ヒヤラレル
人間ノドン底位恐シイ物ガ又トアリマセウカ。」
 この手紙は、たまたま作家の目にとまって作品の中で文字となっていますが、
多くの手紙は、そのまま埋もれてしまっているのでした。