編集工房ノアの本2

 昨日に続いて「リレハンメルの灯」から話題をいただきます。
 作者の宮川芙美子さんは、47年生まれで児童福祉施設乳児院)に25年勤務
したとあります。94年に編集工房ノアから「ミス・カエルのお正月」という作品を
刊行しています。今回の本の最後についている「ミス・カエルのお正月」の広告には、
山田稔さんの評がのっていました。
「 乳児院を描いた表題作他。エッセーと小説のあわいにある静かな文章。技巧に
堕さず、感情を押させて描く。誠実に心打たれる。」
 
 今回の作品集も、表題作は「乳児院」を舞台にしたものですが、巻頭にまとめられて
いるのは、自らの仕事、家族介護に題材をとったものであります。これらは、いずれも
身につまされるものばかりでありまして、楽しんで読む事ができません。
宮川さんのあとがきのことばを借りますと、次のようになります。
「私は今年、二十五年間勤めた乳児院を定年退職した。もうこどもの問題とは縁切れ
かと思っていたが、すぎに都内の子ども家庭支援センターで勤務することになった。
よほど子どもと縁があるようである。・・
 同僚の相談員の中には、この仕事をするようになって、小説をまったく読まなく
なったと言う。小説を読まなくても、現実の方がより複雑で刺激的で考えさせられる
ことが多いということであろう。”事実は小説よりも奇なり”である。小悦を書く方は、
よほど腹を据えてかからねばならないということになる。」
 福祉施設に勤務していると、そこで展開される人間模様の現実が、世間の常識よりも
ずっと先をいっているために圧倒されることがあるのでしょう。そこには、われわれの
理解をこえた世界があるのでした。
 こうした作品群とくらべますと、次のおかれた「文学学校」ものは、読んでいて
ほっとすることです。「人生で知り得た人たちも、あちらへ行ってしまった人の方が
多くなってきた。」にしてもです。