ストリートワイズ4

 講談社文庫「ストリートワイズ」は、坪内祐三さんの「芸の見本帳」のような
ものでありまして、堅いものから柔らかいものまで、坪内さんの仕事の見渡しが
ききます。
 巻頭には愛読し、尊敬する福田恒存に関する文章をおいて、つぎに社会批評を、
その次は、本と読書をめぐるもので、最後にはマイナーな文人についてとなって
います。
 この本の後にでた三十ほどの著作は、すべてこのどれかのジャンルにはいると
思われますので、デビュー作にはすべてがあるというのは、あながち誤りではあり
ません。( 坪内さんが詩とか小説を書いていたり、戯曲を書いていたら、それらは
収録されていませんが、小生は寡聞にして知らずです。)
 坪内さんは、マイナーな文人とその作品を好んでいますが、坪内さん自身がマイナー
な存在を目指しているわけではありませんでしょう。
世の中には、メジャーになることを目指しながら、そうなることができなくて、
マイナーにとどまっているタイプと、もともとメジャー指向ではなくてマイナーで
あることに、なんの痛痒も感じていないタイプというのがあるでしょうが、坪内
さんは、そのどちらとも違います。
 メジャーな人がマイナー作品を好んでいるというと、嫌みにとられることも
ありますので、これをいうにはすこし注意が必要です。
小生が一番好むのは、坪内祐三さんのマイナー好みのところでありまして、どうだ
こんな無名の作家の作品を知っているかといばっていうのではないものが、特に
よろしです。
 そうした代表的な文章は、「ストリートワイズ」に収録されているものでありまし
たら「庭の片隅にいる変わった叔父さん」でありますし、「古くさいぞ私は」に
はいっているところの「スタンレー鈴木」名義で文章であります。
( 小林信彦さんが、W・C・フラナガンとかいって「奥の細道」についての
小説を発表したことを思いだします。)
 スタンレー鈴木というネームをどのくらい表にだしたのかわかりませんが、
雑誌「クレア」に掲載した「カルトを超えたウルトラ・マイナーは偉大なニッポン
文学」と、そのあとにのっている小説のリストは秀逸でありまして、この坪内さんは、
とても好ましく思うのでありました。