限定本の版元

 発行部数が限られていたら限定本として認められるわけではありません。
部数がすくなくて、しかもしかけがあるというのが、限定本でありまして、
その仕掛けというのは、ちょっと豪華であったり、著者のサインがはいって
いたりですが、職人技による手間がかかっていて、しかも製作部数が少ない
ものほど珍重されるようであります。
 こうした限定本については、刊行会のようなものが結成されてシリーズ化
されていたりすのですが、その刊行会には「武井刊本」のような紳士の集まり
のようなものがある一方で、地下出版物のような趣の、秘密クラブのみたいな
刊行会もあったのでした。
 富岡多恵子さんが小説「壺中庵異聞」で取り上げられているのは、すこし
猥雑な限定本の版元であった「真珠社」で、そこでの出版活動の様子が描かれて
いるのでした。
 この版元の主人は、江戸川乱歩の弟でありまして、作中では横川蒼太となって
いますが、この人物像は、ほとんど平井蒼太さんそのものなのでしょう。
この真珠社は、雛絵本(平井さんは、豆本ということばをさけて、雛絵本と
いったいました。)を企画して刊行していたのですが、そのときに平井さんの
前にあらわれたのが、まだ無名時代の池田満寿夫富岡多恵子カップルでしたが、
この二人が共作した雛絵本は、現在はとんでもない高値がついているのであり
ます。