たえず書く人2

 「たえず書く人」といわれる辻邦生さんのすこしでも完全な全集をつくると
すると、いったい全体ではどのくらいの巻数が必要になるのかと思ってしまい
ます。新潮社からでている全集は、相当に端折った編集ですが、それでも2段組で
平均500頁で、20巻となるのですから、これでも相当の原稿枚数となるので
しょう。どちらかというと、長編を中心におさめられていて、代表的な作品は網羅
されているのでしょうが、「樹の声 海の声」(元版は朝日新聞社)がはいって
いませんでした。新聞に連載された「雲の宴」「時の扉」などもカットです。
 講談社からでている「黄金の時刻の滴り」という小説集の後ろには、珍しく辻さんの
著書目録がついているのですが、これにあるのは亡くなる7年前の92年までのもの
です。それにしても、うんざりするほどの著書数でありまして、いったいどのように
すれば、こんなにたくさん書くことができるのかと、不思議に思います。
とくに魔法をつかって書いているのではなく、とにかくたえず書くことをしなくては、
こんなに作品を残すことはできないということでしょう。
 中公文庫では、今頃になって「春の戴冠」が文庫本となり、入手しやすいことに
なっていますが、。元版は、もっていても、読むことができていないひとは、これを
機会に、文庫で読んでみてはいかがでしょうか。