頁間を読む

 昨日に見物した映画「全然大丈夫」は、主人公の実家が古本屋ということで
古本にかこまれた店内でのシーンがたくさんでてきます。残念ながら、主人公は
古本屋の長男ながら、古本という仕事が好きではなく、「お化け屋敷」づくりを
夢見ているのでありました。
 それでも父親が不在のときには店番ですわったりするのですが、そのときに、
若い女性がカップルできて、古本はだれがもっていたかわからないので汚くて
なんていっているのをきくと、むっとしてにらんだりするのでした。
古本屋に持ち込まれる本には、持ち主が栞代わりにつかっていたりするハガキ
などが挟み込まれていたりして、前の持ち主のことを想像するてがかりになった
りするのでした。このように本に挟みこまれているもののことを、井上ひさし
さんは「本の枕草紙」文芸春秋刊のなかで、「頁間を読む」というタイトルで
記しておりました。この文章のことは、以前にも紹介をしたことがありますが、
「頁の間にはさまっているあれやこれやをひっぱりだしては机上にならべ、ああ
でもあに、こうでもないと考えるのがすきである。」
 この井上さんの文章でも、「白髪が数本、蚊が一匹、ふけが数片発見され」
これをてがかりに旧所蔵家を推理するのが楽しいということですが、小生が
最近入手したものには、次のようなものがはさまっておりました。

・ 「プレーンソング」保坂和志 中公文庫
 これはとにかく、髪の毛がほぼ全頁間といってもいいくらいはいっていた
のでした。どうしたら、このようにすべての頁に挟む込むことができたので
ありましょうか。べつにヘアカットしたときにカットした髪を受けるために
この文庫本を使ったわけでもないでしょうに。

・ 「ジャズ・スタンダード100」 青木啓 新潮文庫
 これには写真がはさまれていました。男性、女性が一人で写っているものが
それぞれ一枚で二枚セットの趣であります。このどちらかが、持ち主であった
ものでしょう。この写真のどちらかがもっていた本でしょうか。本を処分する
ときに写真を取り除くのをおこたったのでしょうか。もとの持ち主が、事情が
あって、処分をどなたかに頼んで、それでチェックをせずにどこかにもちこま
れたのでしょうか。本は平成4年の刊行と奥付にありまして、うつっている
20代の人は、その服装からこの本がでたころにおつき合いでもしていたので
ありましょうか。
 この文庫本は、しばらく手元におきますが、これらの写真は処分しなくては
いけないでしょう。