ブックオフの収穫

 昨日のブックオフで購入したものの続きです。ブックオフの百円棚に講談社文芸
文庫がある場合には、ほとんど購入するぞというくらいの気合いでいるのですが、
半額となるとずいぶんと高い感じがして、すこしためらってしまいます。
 昨日に半額でえいやっと購入したのは、外村繁さんの「澪標・落日の光景」であり
ました。
 外村繁さんは、明治30年に生まれて、昭和36年に亡くなったとあります。
けっして人気作家というわけではないのですが、死後まもなくに講談社から個人
全集全6巻がでていますし、阿佐ヶ谷に住んで「阿佐ヶ谷日記」なんて作品も
だしていますので、ちょっと気になったのであります。
 文芸文庫は、年譜が充実しているのでお気に入りですが、外村さんのこの本の
には年譜がないのが残念であります。作品が私小説のような雰囲気で、そのなかに
年号などもでてきますので、それと年譜を重ねあわせて読むのも一興と思うので
すが。
 「澪標」という作品は、外村さんにとっての「ウィタ・セクスアリス」とあります。
性的自叙伝で、ずいぶんと年をとってから書いたもののように感じますが、発表年を
みましたら、60歳くらいであります。今から、50年ほど前の60歳というのは、
今よりもずっと精神的に年寄りであることがわかります。
 旧制三高では、後世に文学者として名前を残すこととなる仲間と「劇研究会lで
であうことになるのでした。
「 ある日、二人の生徒が『三高劇研究会』のビラを貼っている。その一人は色の
浅黒い、いかつい顔をしていて、見るから不興気な表情である。こんな下らない
仕事から一刻も早く離れたい、というような態度である。実に厭そうである。
 私は劇研究会にも、ビラを貼っていた生徒にも妙に興味を覚え、当日、会の
催される円山公園の『あけぼの』へ行ってみる。その席に今一人、より魁偉な、
極めて彫りの深い容貌の生徒がいる。脚本が朗読されている間、かれは厳然と腕を
組み、その態度を崩さない。やはり興味をおぼえる。前者が中谷孝雄であり、
後者が梶井基次郎である。・・・
 私は梶井や中谷と常に行動をともにするようになっていた。梶井は大酒家であり、
愛酒家でもある。小料理屋で飲む酒の味も、私は梶井から教えられる。中谷は
全く酒を嗜まない。
 中谷も梶井も私より二年前に三高に入学している。しかし二人とも二度原級に停め
られている。いずれに出席日数の不足による。殊に中谷にはすでに愛人もあり、
同棲していたこともある。」
 この作品は、文学自叙伝ではありませんので、文学仲間についての記述はすく
ないのですが、若き日の梶井基次郎の記録としても貴重なものです。