フレップ・トリップ

フレップ・トリップ (岩波文庫)

フレップ・トリップ (岩波文庫)

 「フレップ・トリップ」は岩波文庫の新刊です。この文庫の新刊は、
いつも「図書」でチェックをしているのですが、最近は、チェックが
甘いようでありまして、本日に書店へといって、へえーこんなものが
でているのかと手にとったのであります。
 この本のカバーの折り返しのところには、次のようにありました。
「 フレップは赤い実、トリップは黒い実。ツンドラ地帯の灌木から
名付けた白秋の旅。船は国境の安別から真岡・・・・敷香を巡り
オットセイとロッペン鳥群れる海豹島へ。歌や手紙、創作をはさみ、
異郷の人心と風景息づく、心はずむ紀行文。」
 トリップとあるので、なにか薬をのんでハイになるような文章であるかと
思いましたが、北原白秋の時代ですから、そのようなことはないですよね。
それにしても、樺太に自生する木の実をならべて、書名にするとはです。
初出は25年くらいですから、いまから80年も前にしては、ずいぶんな
センスであって、さすがに白秋です。
 じつは、フレップという言葉に反応をしたのでありました。この言葉
どこかで聞いたことがあるぞです。
 この言葉について、解説の山本太郎さんが書くところでは、次のように
なります。
「 題名のフレップは赤スグリ、レッド・カラン、アカミノフサスグリ
トリップは黒スグリ、ブラック・カラン、クロミノサスフグリだという説も
あるが、白秋童謡のなかでは『ナナカマド』とされている。スグリ
ナナカマドから葡萄酒が出来るという話は聞いていないので正確なところは
わからない。」 

 話は、いまから30年ほど前にさかのぼります。
小生が、長谷川四郎さんに「ハスカップ=ゆのみジャム」というのを送った
ことがありました。このときに、長谷川さんからはがきいっぱいに特徴の
ある字で書かれた礼状をいただきました。
そのはがきのなかに、このフレップがでてくるのでした。(私信ですが、
故人は引用を許してくれますでしょう。)

「 ゆのみはたべてみて、これはたべたことがあると思い出しました。
カラフトの親類からずいぶん昔にもらったことがあります。それはロシア人の
つくったジャムでした。想像するのに、ロシア語では、ブルニスカというの
ではないでしょうか。
 北原白秋にフレップ・トレップ(?)と題する樺太紀行がありましたが、
このフレップがブルニスカと同じ物だと思います。ブルニスカは『デルスー・
ウザーラ』にも出てきます。ゆのみは色がよくて、味もいいです。鉄分を
ふくんでいるようで、歯が黒くなるところはカラフトからのおくりものに
似ています。」  
  
 長谷川さんは、小生が送ったジャムを喜んで、そのあとで製造元にたくさん
注文を出してきたということを聞きました。北海道からカラフト、シベリアに
まったく同じではないのかもしれませんが、スグリ類があります。
 シベリアからの渡り鳥が、その種子を運んできて広い範囲に繁茂させたもの
でありましょうか。
 それは、長谷川四郎さんの足跡とも重なるのでありました。