バルタン星人と呼ぶ声

 筑摩書房のPR誌「ちくま」のお楽しみであった石堂淑朗
「往事茫々老人多難日暮日記」の連載がおわりました。小生は、これを愉しみに
しておりましたが、12回で終わりとなったものです。
 石堂といえば、大島渚組でありますが、忘れられない作品に「少年」という
のがありました。(ただし、この作品の脚本は田村孟さん)こどもに当たり屋を
させながら、日本中を旅行するというものでした。主人公となる少年には、
できるだけ幸薄いこどもがよろしいと施設にはいっている少年を、主人公に
抜擢したのです。
 一緒に生活をして、情がうつったスタッフが、この少年を養子にしたいとか
いったそうですが、こうした組員には、「どいつもこいつもヒューマニストめ」と
大島は叱っていたとのことです。
 少年たちは、流れ流れて北海道にくるのですが、真冬の北海道で、少年とその
弟がウルトラマンごっごをするのでした。まわりは真っ白ななかで、バルタン
星人ごっごをして、涙を誘うのでありました。( ネットでみたらアンドロメダ
星人とあって、それが正しいのかもしれませんが、小生の記憶のなかでは、
これがバルタン星人とすりこまれています。)
 バルタン星人というのは、ウルトラマンキャラでも人気の一つでありまして、
これがどなたの生み出したものであるかわかりませんが、石堂の連載には、
次のようにありました。
「担架に乗せられたまでは記憶にあった。病院では人工心肺をつけられて
まる三日意識不明、四日目に意識を取り戻した。目の前に女の顔があった。
『バルタンセイジン、バルタンセイジン』女の声が二つ聞こえて私の体を
ひっぱっている。私はベッドの下におちて、看護婦二人がかけ声をかけながら
私をベッドに引き上げていたので。
 彼女らはわたしがウルトラマンの脚本家と知って、ならばバルタン星人に
違いなしとあってのかけ声だったのである。とにかく、生き返ったのである。」
 
 バルタン星人が悪い存在であるわけがないと思わせる記述です。