先を急ごう

 本日に見るともなしに近くに置かれていた坪内祐三さんの「文庫本を狙え」

を手にしていましたら、次のところが目に入りました。

文庫本を狙え! (ちくま文庫)

文庫本を狙え! (ちくま文庫)

 

  当方が手にしたのは晶文社版のほうですが、その220ページに次のように

ありです。取り上げている文庫は安藤昇さんの「激動 血ぬられた半生」です。

「その安藤が最初に世間の注目を集めたのが昭和33年6月の横井英樹(当時

東洋郵船社長)銃撃事件であり、この本の中でも一番の読ませ所になっている。

 発端は横井英樹が、昔世話になった蜂須賀侯爵家への借金返済に全然応じよう

としなかった事にある。蜂須賀家は戦後に没落し青息吐息で、一方の横井は資産

何十億と言われていたのに。しかも横井名義の正式な財産は「なんと郵便貯金

三万数千円というわずかなものでしかなかった」から、法的手段に訴えても無力

だった。そこにある人物を介して関わったのが安藤昇だった。」

 安藤昇さんは、インテリヤクザの組長で、のちに足を洗って映画俳優となる人

ですが、一方の横井さんは乗っ取り王ともいわれて、なかなかあらっぽい経営者

であります。横井さんはしぶとくやっていたのですが、ホテルニュージャパンの

オーナーであったときに、ホテル火災で多くの被害者をだして、これの責任を

追求され、有罪となりました。

 この坪内さんが書いている下りを見て、安藤昇横井英樹を銃撃したのは、

蜂須賀侯爵家の借金返済をめぐってのことと知りました。

 蜂須賀家といえば、いま図書館から借りて読んでいる「絶滅鳥ドードー

追い求めた男」が、その時代の当主ではありませんか。当主が絶滅鳥を追いかけ

ているよりも、こちらの話題のほうが面白そうでありますので、先を急いで、そ

れが書かれているところを見てみることにしましょう。

 この本の残りが20ページくらいになって、しかも当主が亡くなって5年も後に

なってこの銃撃事件はおきるのでした。

「蜂須賀正氏と横井がいつ知り合ったか不明だが、山階芳麿の父、山階宮菊麿王

は、一時梨本宮家に養子に行っていたので、芳麿から梨本宮家の別荘売却の話を

聞き、正氏が、横井を紹介したとも考えられる。

 しかし、50年に正氏は、横井に年二割の金利で三千万円を貸したことが判って

いる。破格の金利なので金儲けの巧い横井に期待したのか、あるいはうまく口車

に乗せられたのか。」

 ドードー鳥を追いかけていた蜂須賀侯爵は、とうてい海千山千の横井にかなう

わけもなしでありまして、結局のところ人を介して安藤昇の力を借りることに

なったのですが、そんなことではいわかりましたという横井ではなかったので

すね。