最近の新聞から 2

 このところの朝日新聞朝刊は文化・文芸欄で中村吉右衛門の「語る 人生の贈りも
の」を連載しています。昨日に紹介した「岩波文庫90年」と同じページをかざってい
ます。これはなかなかぜいたくなページでありますこと。ちなみに本日は、この中村
吉右衛門の「語る」と瀬戸内寂聴さんのエッセイが同じ紙面になっています。
 歌舞伎役者でこうした欄に登場するとなると、やはりそれなりの人物でなくてはい
けないのでしょうから、芸談につながるような話となれば、当代の吉右衛門は最適任
の一人ということか。
 この連載で子どもの頃に接した養父である初代中村吉右衛門についての思い出が語
られていますが、これを見ていましたら、先月に読んでいた小林勇さんの「遠いあし
音」に収録の「楽屋の吉右衛門」のことを思いおこしました。
 小林勇さんが初代中村吉右衛門を知るようになったのは、岩波文化人の一人である
小宮豊隆がひいきであったことによります。小林勇さんの文章からの引用です。
「小宮先生ほど、芸術家としての、人間としての吉右衛門を深く理解し、愛し、ほれ
こんだ人は他にない。
 戦後、その小宮先生が仙台から東京に移って来てから、私も吉右衛門について聞く
ことも、会う機会も急に多くなった。」
 こういうことがあったからでしょうか。岩波茂雄中村吉右衛門をひいきにする
ようになって、岩波茂雄が個人的にひそかに「岩波茂雄賞」と呼んだ「誰にも相談せ
ず、誰にも知らさない、岩波と受賞者だけが知っているという賞」を吉右衛門に贈っ
たのだそうです。
「ともかく戦後のいつのころからか彼は岩波書店へ現れるようになった。しかもそれ
は次第に多くなっていった。・・・
 岩波書店の人たちは、みな吉右衛門を敬愛していた。受付でも、廊下ですれちがう
人たちも、役員の室でも、彼は暖かい態度をもって迎えられたから、それはかって
味わったことのない心持ちを抱かせるものであったのだろう。」
 かってはこういう役者と出版社の関係があったのですね。最近もないわけではない
でしょうが、歌舞伎役者ではなかなか思い当たらないことで、二代目吉右衛門はどう
なのでありましょう。