待ち時間に読書

 毎日がお休みなのでありますからして、なにも日曜日に動いて、この日しかお休み
でない現役世代の邪魔をしなくてもいいのですが、朝の一番であればあまり現役の人
たちに迷惑をかけることもあるまいと、午前10時にスマホの修理のために近所のドコ
モショップへといってみましたら、開店早々というのに修理相談のための整理番号は
9番目でありました。見わたすと待っている方の半分は退役風ではありまして、あま
り現役に迷惑をかけることはしないようにと、改めて思った次第です。
 9人も待っていますと、相談に入るまで待ちがそこそこかかります。それを想定して
持参した文庫本を読むこととしました。このところ、気が向いたらページを開いてい
るのは、次のものです。

蓼喰う虫 (岩波文庫 緑 55-1)

蓼喰う虫 (岩波文庫 緑 55-1)

 やっとこの小説の楽しさがわかる年になってきたのかもしれません。新聞小説であ
りますから大変よみやすいこと、それと小出楢重の挿絵が楽しくて、話の筋には関係
なしに任意のページを開いて楽しむというのもよろしです。
「着付けと言い、姿勢と言い、そういう爺臭い風をするのがこの老人の好みであって、
『老人は老人らしく』というのを口癖のようにしているのである。思うにこの羽織の
色合いなども『五十を過ぎたら派手なものを着る方がかえってふけて見える』という
信条を実行しているつもりなのであろう。要が常に滑稽に感じるのは、『老人老人』
というもののこの父親はまだそれほどの歳ではない、二十五とかに結婚して、今は
亡くなったその連れ合いが長女の美佐子を生んだとすると、恐らく五十五、六より
取ってはいないはずである。父の性欲はまだ変形していないという美佐子の観察は
それを裏書きするもので、『お前のお父さんの老人ぶるのは、あれは一つの趣味なん
だよ』と、かれもかねがね言っているのである。」
 要(主人公)と美佐子は夫婦で、美佐子の父親は五十五、六で、娘美佐子よりも
若い妾と一緒に暮らしているという設定です。
 最近に「趣味で老人ぶる」というのはあるのでしょうか。今は、若く見せたい、
または歳よりも若く見られたら喜ぶということになっていますが、かっては歳が
多くみられるほうを望んだ人もいたということですね。