幼児性の台風 

 本日に、部屋の隅におかれている本を手にしてみたら、「幼児性の台風」なる言葉
が目にはいりました。週刊誌連載のコラムを一冊にしたものであります。
「 首相を評して、ナルシズムとサディズムのかたまりという批判がある。それはその
通りなのだが、要するに<幼児性>の発露ではないか。
 鏡を眺めて、おのれの姿にウットリする。ホメられると喜ぶが、少しでもケナされる
と、ネチネチと恨む。弱い者を徹底的にいじめ抜く。これが幼児性。
 まあ誰もが持っているものである。ただ、ぼくの場合をいえば、戦争末期にひどい目
に遭わされ、飢餓から逃れるために働くことによって、そのカラからほぼ抜け出した。
 首相は六十を過ぎて、幼児性を保っているレアケースで、オペラを観ても、相撲を観て
も、感想は『感動した』で、実に単純、わかり易い。
 若い人たちの中には幼児性の強い人が多く、(『おたく』がその一例)、首相の幼児性
が彼らの中で屈折している幼児性を魅了した。彼らは心を惹かれ、選挙にでかけた。
・・・・
 幼児的な人の特徴は、ヒステリックで反応が早いことだ。党内外や国際的なバランスを
考えられないのだから、当人は靖国神社の参拝など、どうってことない。<私人>として
行ってと主張しても、海外から見れば、総理大臣は<私人>ではあり得ない。この辺も、
バランスと論理の欠如からくる発想だ。」

昭和のまぼろし―本音を申せば〈2〉 (文春文庫)

昭和のまぼろし―本音を申せば〈2〉 (文春文庫)

 元版は2006年4月刊ですから、もう十年も前のものです。「幼児性」をいわれている
のは、当時の首相です。相撲を見て「感動した」といったのを見て、拍手喝采を送った
人もいれば、うっそだろうと思った人もいるのですが、首相と一緒になって感動した
人が多かったようなのには、驚いたことです。
 もちろん、この首相とは今から十年ほど前の首相ですが、これが戦後六十年でありま
して、首相の幼児性というか、社会の劣化が問題となりはじめたようであります。
今の首相のありようなどは、その当然の帰結でありまして、この文章のなかで、小林
信彦さんが、「ぼくが気になるのは、幼児的な選挙民の方である。」という心配が
あたっているとしか思えません。
 それにしても、誰も尊敬をしていなければ、信頼してもいないようなリーダーが、
大きな顔をしているというのは、「馬鹿な大将、敵よりこわい」でありますね。__________