昨日買った本 6

 丸谷さんは、「Switch」のインタビューにこたえて、「小説の筋を考えることが
商売だから、寝ても覚めても小説の筋を考えているわけで、眠っているときにも
考えているわけです。」と語っています。
 自己模倣に陥らず、意欲的で斬新な小説を創作したいという一念で、丸谷さんが
活動をしていたのは、間違いのないところであります。問題はその作品の評価であり
ますが、意欲と仕掛けという観点からすれば、60代後半から80歳近くになるまで新し
い長編小説に取り組まれたのは賞賛に値することです。それは小説としておもしろく
ためになるのですが、読んだ人の生き方をかえるようなタイプのものではないように
も思えます。読者の生き方をかえるような小説は、考えようによっては他の作家でも
書けるので、そういうものは「笹まくら」までとしましたということでしょうか。
 丸谷さんが「女ざかり」や「輝く日の宮」でやってみようとしたことは、どうやら
丸谷さんの中編でよりうまくまとまったようであります。
やはり、「Switch」のインタビューからです。
「『横しぐれ」にしろ『樹影譚』にしろ、非常に批評に近接しているという感じは
ある。でも、やっぱり批評じゃないんです。これは非常に自分ではっきりしている。
峻別している。でも批評的文学形式、小説という文学形式の枠組みがあって、その
枠組みがぼくの物の考え方を、思考形式を最初から決定している、規定している、
という気持ちをぼくは強くもっているんです。」
 これに続いて、「ぼくは形式を重視する型の文学者」といっています。