駆け足で読了 3

 監禁された非常勤看護師 アレックスさんの読書歴から、どうして彼女は監禁される
にいたったか理解することができるだろうかというのが、本棚探偵見習いである当方の
関心であります。( その昔、「本の雑誌」の企画で、本棚の写真を見て、その持ち主
がどのような人か推理するというものがありました。妄想たくましくでありますが、
もちろんお遊び。)
 アレックスさんの本を見た警察官は「高校生の本棚みたいですね。」というのです
が、別の刑事さんは、読まれた本に、線が引かれたり、感嘆符などが書き込まれている
ことから、「読むべきものを読む。なすべきことをきちんとやろうとする。勤勉、それ
はつまり情緒的に未熟だってことか?」といったりします。
 このあとには、次のようなくだりとなります。
「イタリア語もすこしわかるようですね。英語も。外国文学の古典に手を出しています
が、読み終わってはいません。」とあり、続いて「イタリア語版の『いいなずけ』、
『住所不定の恋人』、『薔薇の名前』、そして英語版の『不思議の国のアリス』、
『ドリアン・グレイの肖像』、『ある婦人の肖像』、『エマ』がある。」 
 イタリア語の本で、「いいなずけ」は古典で、「薔薇の名前」は大ベストセラーで
す。 それじゃ「住所不定の恋人」というのは、どのような作品でありましょう。
イタリア語にまるでくらい当方は、この訳から思いあたる本がなくて、だれのどういう
作品なのでしょう。これまでのところで、アレックスさんはひどくレアな本を読んで
いるわけではないのですから、これは実在するものと思われるのですが、これはもうす
こし調べてみましょう。
 この他でアレックスさんの読んだ本としては、「明日の戦いでは私のことを思え」
アンナ・カレーニナ」「ミドルマーチ」「ドクトル・ジバゴ」「オーレリアン」
「ブッデンブローク家の人びと」などがでてきます。
 この作品の刑事さんは、あえて作品の共通点を無理に探すようなことはしないとあり
ますが、ずいぶんと本格的な読書家であるようです。「明日の戦いで私のことを思え」
なんて、誰の小説なのかと思いますが、これも実在するのでしょう。
 30歳の女性で、このような本読んできた人がいたとしたら、ぜひとも本の話をしたい
のところでありますが、残念なのは、この小説のなかで、アレックスさん自らが読んだ
本について語ることがないことであります。本当に読んだのかなと感じてしまうのは、
この本のリストに作者の好みをすけているように思うからでありましょう。