仕事帰りにブックオフ 3

 仕事帰りにブックオフによった話題にするはずでありましたが、収穫なしであった
ことから、立ち寄る前に購入した「en-taxi」の話題となりました。結局は坪内祐三
さんの旧著を手に取ることになったのでありますが、「四百字十一枚」みすず書房
に収録の「国内の『亡命』者の遺した珠玉の雑文集」に目がいきました。
 坪内さんが「国内『亡命』者」というのは、萩原延壽さんのことであります。
 坪内さんの書き出しは、次のようになります。
萩原延壽といえば、『馬場辰猪』の、『睦奥宗光』のさらには全十四巻に及ぶ
ライフワーク『遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄』の著者として知られている。
つまり優れた歴史家として知られている。

旅立ち 遠い崖1 アーネスト・サトウ日記抄 (朝日文庫 (は29-1))

旅立ち 遠い崖1 アーネスト・サトウ日記抄 (朝日文庫 (は29-1))

 しかし私は、そういう萩原延壽と、ちょっと違った出会い方をしている。」
 という導入から、浪人生の時に「思想」1977年4月号の「ハーバート・ノーマン
特集号」に掲載の丸山真男萩原延壽の対談における萩原の発言に感銘をうけたと
いうことにつながります。
 この「四百字十一枚」に収録の文章は、萩原さんの雑文集「自由の精神」が刊行さ
れたことを機にかかれたものであります。
自由の精神

自由の精神

「いつしか萩原延壽は、知の世界で、伝説的な隠者となっていった。
中央公論』で萩原延壽の才能を積極的に世に知らせようとした編集者に粕谷一希
いる。粕谷一希は『東京人』時代の私の上司である。その粕谷さんの元を、時どき、
独特の雰囲気のあるオジさんが訪れた。そのオジさんが萩原延壽であると知らされた
時は驚いた。萩原延壽さんについて、私に微苦笑を浮かべながら、『あんな怠け者は
いない』と言ったことがある。その言葉には畏敬の念がこめられていた。」
 「あんな怠け者はいない」という言葉からは「高等遊民」という、いまはあまり
聞かれなくなった知識人を思い浮かべることです。
 これがなぜブックオフにつながるかといえば、先日に巡回したとき、ここの棚に
「遠い崖」の朝日文庫版がずらり14冊そろってならんでいたからであります。半額
というのは残念でありますが、これからくるたびに虫食いのように一冊ずつ購入し
て、最終的には何ヶ月かかけてこれをすべて自分のものに(だぶりはのぞいて)
してしまおうと思っていたのに、昨日にいった時には、そのことをすっかり忘れて
いたのでありました。