馬淵美意子のすべて 4

 馬淵美意子さんの詩の紹介です。
 馬淵さんの詩には、散文のようなものと、ことばを極限まで削ったものとが
あります。
 まずは、言葉のすくないものからです。
 
  冬
 
 どうしてなの
 かまきり
 
 木洩れ日の
 あみを くぐり


 よごれた
 あたしの衿を

 
 うすい むねを
 さまよう


 すっぽり
 枯葉の色をかぶり


 こわばる肢を 
 ふるわせて

「馬淵美意子のすべて」は、25センチ四方の変形の本です。これの見開き2ページに
この詩が印刷されています。1ページに6行ですからほんとにゆったりとして、美しい
ことです。
 もうひとつは、「棗」というタイトルのものです。詩の前にはすこし小さな文字で
次の言葉がそえられています。

「        棗 

 『かって在りし日アインシュタインの白い額に、影を落として去来した光の雲 その
  高速のひとひらの跡に』 

 笑止に ゆきどまる
 切り岸だった
 億年がかり ないあげた息綱は
 つきていた
 
 一局の一石がまやかす盲目の時間
 斧の柄は朽ちはてていた
 山ふかく まひる
 しろ目を 剥いてねむり
 谺もたえた
 
  晋の昔のとある日、山深い石室に童子らあって碁をうつ。樵夫王室た
  またま来り眺め、なつめのごときものを与えられて時をすごす。やが
  て帰れとうながされ、始めて傍なる斧を見る。柄朽ち刃は赤錆ぬ。  
  驚いて家をもとむれどすでに数百年を経てありたり。       」
  
 ゆったりと組まれた活字によって印刷された本で、読んでもらいたいもので
あります。