馬淵美意子さんの詩の紹介です。
馬淵さんの詩には、散文のようなものと、ことばを極限まで削ったものとが
あります。
まずは、言葉のすくないものからです。
冬
どうしてなの
かまきり
木洩れ日の
あみを くぐり
よごれた
あたしの衿を
うすい むねを
さまよう
すっぽり
枯葉の色をかぶり
こわばる肢を
ふるわせて
「馬淵美意子のすべて」は、25センチ四方の変形の本です。これの見開き2ページに
この詩が印刷されています。1ページに6行ですからほんとにゆったりとして、美しい
ことです。
もうひとつは、「棗」というタイトルのものです。詩の前にはすこし小さな文字で
次の言葉がそえられています。
「 棗
『かって在りし日アインシュタインの白い額に、影を落として去来した光の雲 その
高速のひとひらの跡に』
笑止に ゆきどまる
切り岸だった
億年がかり ないあげた息綱は
つきていた
一局の一石がまやかす盲目の時間
斧の柄は朽ちはてていた
山ふかく まひるは
しろ目を 剥いてねむり
谺もたえた
晋の昔のとある日、山深い石室に童子らあって碁をうつ。樵夫王室た
またま来り眺め、なつめのごときものを与えられて時をすごす。やが
て帰れとうながされ、始めて傍なる斧を見る。柄朽ち刃は赤錆ぬ。
驚いて家をもとむれどすでに数百年を経てありたり。 」
ゆったりと組まれた活字によって印刷された本で、読んでもらいたいもので
あります。