返却の旅 

 借りたままになって、返しそびれているものはあったろうか。
借りたのか、貰ったのか判然としないこともありますでしょう。預かったというのと、
貰ったというのは話が違いますよね。
 図書館から本を借りて、そのまま返却をせずに何十年もたってしまったというよう
な話を聞いたことがありますが、公立図書館では、これが問題になっています。
借りた物は返すようにしなくてはいけませんです。
 先日に、津村節子さんが書いていた吉村昭さんの生原稿が40年ぶりに手元に戻って
きた話を話題にしましたが、この編集者さんは、自宅で保管していたかって担当した
作家の生原稿をせっせと返却して歩いているのでしょうか。
 数十年たってから返却の旅ということを目にして、思いだしたのは、網野善彦さん
の「古文書返却の旅」でありました。

古文書返却の旅―戦後史学史の一齣 (中公新書)

古文書返却の旅―戦後史学史の一齣 (中公新書)

 この本のカバーの折り返しには、次のようにあります。
「日本には現在もなお、無尽蔵と言える古文書が未発見・未調査のまま眠っている。
戦後の混乱期に、漁村文書を収集・整理し、資料館設立を夢見る壮大な計画があった。
全国から大量の文書が借用されたものの、しかし、事業は打ち切りとなってしまう。
後始末を託された著者は、四十年の歳月をかけ、調査・返却を果たすが、その過程で、
自らの民衆観・歴史観に大きな変更を迫られる。」
 網野さんの書き出しの一行です。
「敗戦後、一九五五年までの十年間は、現在の状況からは到底想像できない激動の時期
であった。」
 当方は、団塊世代の終わり頃に生まれたのでありますが、激動の時代が落ち着きを
見せ始めたころにものごころがつきましたので、一番ひどい時代はわかっておりません。
戦後の混乱期というのは、生活するのは大変であったのですが、理想に燃えて、未来
への希望を疑っていなかったようであります。それで途方もない計画が具体化した
ものであります。