新潮 2013.6 4

 松家仁之さんの新作「沈むフランシス」は、北海道の過疎の村を舞台に
しているというだけでこのましく思っているという話であります。
 松家さんと北海道を結ぶのはなんでありましょうか。まるでなんのゆかり
もなしに、このような作品ができるとも思えませんが、取材することで、
このような作品を生み出すのが作家というものかもしれません。
 デビュー作は設計事務所を舞台にしていましたので、登場人物はほとんど
が知的なクリエーターという感じですが、北海道の過疎地が舞台ではそうも
いかずです。
 前作に登場する車は、ボルボとかヨーロッパ車でありましたが、北海道の
過疎地で「郵便局の非正規雇用の職員」となれば、ヨーロッパ車は似合わな
い。
「現地では四駆のクルマがなければ身動きがとれない。ガソリン代もばかに
ならないだろう。北海道の山村で四駆がなかったら、東京のレストランでの
会食や、ホテルでのパーティに着てゆくドレスや靴がないことより、はるかに
悲惨に違いない。・・小さな四駆のクルマを中古で買い、新しい生活をはじめ
た。」
「小さな四駆のクルマ」ってなんだろうと思っていましたら、このページから
ずっとあとになって、このクルマの名称がでてきました。
「中古のスイフトを買ったのは、4WDで、運転席と助手席にシートヒーターが
ついていたからだ。ボディカラーの青はあまり気に入らなかったが、北海道で
運転するための実質に適正な価格がともなえば、色はじきに慣れるだろうと
選んだクルマだった。」
 北海道に住んでいても、比較的雪がすくないところに住んでいる当方の車は
4WDではありません。4WDでスイフトというのは、当方のまわりの人でも
のっている人がほとんどいないことでありまして、このクルマに
シートヒーターがついているなんてことは、まったく知りませんでした。
 いくつか喜んだなかのひとつに、この作品のなかに当方の住む町の名が
二度ほどでてくることであります。こうした作品で町の名を見ると、ついつい
うれしくなってしまいます。