最近手にしている本 4

 ページをかせぐということは、岩波新書「私の読書法」にある杉浦明平さんの
エッセイのなかにあったように思います。当方と同じくらいの年代の人には、
かなり知られているもので、一ヶ月で1万ページ読破をノルマとする話であります。
一月で一万ページというと、一日に三百ページは読まなくてはいけない計算で、
ただただ本を読むという生活をしていたとしても、これはたいへんであるように
思います。難しい本が多くなるといきおいページがかせげないので、たまには
肩のこらないものをいれてページをかせぐというふうにありました。
 当方は、本はねころんででありまして、読んでいるうちにいつのまにか居眠りし
てしまうのですから、このようなノルマを課したとたんに、とんでもないことに
なってしまいます。
 でも、そうでない人もいるのですよね。最近読んだ追悼文には、次のようにあり
ました。
「毎日睡眠四時間たらずで目一杯遊び、学ぶ生活に私の肉体が悲鳴をあげただけの
ことである。だが先生は、一説によると『健康不眠』というきわめて稀な特異体質
らしく、彼の肉体は人並みの睡眠時間をかならずしも必要とはしなかった。たしか
にそう思わざるを得ないような出来事を、ほかにもいくつも思いだすことができる。
こうして先生は、寝なくともよいことによって浮いた時間を、テニスではなく、
もちろん酒でもなく、ほとんどは本を読むために費やすことができた。先生の僥倖
というべきだろう。人生で、他人の倍の読書時間を、健康のまま確保できる肉体を
持って生まれるとは。この点でも、先生は肉体というものの物理的な限界をどこか
で超えることのできる、まか不思議な存在なのである。」
 健康不眠というのは、非凡な読書人となるための要件であるのかもしれません。
 この追悼文は、「すばる」5月号にあった今福龍太さんによる「山口昌男」さん
におくられたものです。題して「踵に翼をつけたヘルメス」の部分です。
普通にしていれば、あれほどの読書量とはならないことです。
 そういえば、昨日の朝日新聞には、国書刊行会からでた「山口昌男ラビリンス」
の広告がありました。亡くなったのをきっかけに、この本を買ってやろうという
人がでるといいのですが。