あれもこれも 12

 大橋鎮子さんは、戦後の女性編集者として代表的な一人となるのですが、花森さん
の存在が大きすぎて、その影に隠れてしまいがちです。
 大橋さんの著書には、控えめなかたちで花森編集長に提案して採用された企画に
ついてが書かれています。
「これを読んだとき、私自身が、きれいな空気をいっぱい吸い、広い北海道の自然の
なかで育った子どものころの思いと、重なったのかもしれません。
 私は『スポック博士の育児法』という本が気になりました。
 しかも世界各国で翻訳されて、すでに二千万部売り尽くし、<育児の聖書>と呼ば
れて、驚異的な売れ行きを続けている本といいます。でも、日本では、なぜか、まだ
翻訳されていません。
 さっそく原書を取り寄せて、花森さんに提案しました。花森さんも、ざっと見て、
大賛成で、その年のうちに翻訳権を取りました。」
 「スポック博士の育児法」の翻訳が世にでるにいたった最初の経緯が記されていま
すが、世界的なベストセラーといえば、翻訳権の取り合いになるものですが、これに
関しては国内でのセールスが見込めないと思ったか、翻訳にのりだすところがなくて、
暮しの手帖」におちたものでしょう。
 大橋さんの文章には、「初版は五万部、版を重ねて百二十万部。今も売っています。」
とあります。ちなみに初版は、1966(昭和41)年11月でありますから、すでに刊行か
ら50年を超えています。
 内容の良いものを、長い年月をかけて販売していく。さすがに商品テストでならした
暮しの手帖」が刊行するものです。

最新版 スポック博士の育児書

最新版 スポック博士の育児書

 そういえば、「すてきなあなたに」というシリーズも大橋さんの発案になるものと
あります。「すてきなあなたに」というと、瀟洒な花森さんの装幀が思い浮かびます
が、入れ物は花森さんで、中は大橋さんの手によるものです。
すてきなあなたに

すてきなあなたに