創業40周年 13

 鼓直さんによる「驚異のるつぼ」からの引用を続けます。
「 60年代の初めに文字どおり世界的な<ブーム>を呼んだラテンアメリカ小説の今日
の活力、多彩さは、決して身贔屓でいうのではない、まさに瞠目すべきものがある。
またしてもカルペンティエールだが、彼はラテン・アメリカの文化について語って、
それは本質的に混淆の、雑種の文化であるといった。その小説文学に関しても同じ性格を
指摘できる。
 そこには、新しい文体が新たな血を注入した原住民主義の小説から、例の魔術的レアリ
スムにのっとった小説、ラ・プラタ河流域の諸国で注目しべき、実存主義の流れのなかに
ある小説、そしてヌーヴォーロマンに刺激を受けた実験的な<言語の小説>に至るまで、
あらゆる傾向のものが含まれている。ラテン・アメリカの現代小説は、沸々とたぎる巨き
なるつぼ、に譬えられるだろう。
 るつぼの熱気は、あの遠い大陸からここにも及んでいるようだ。この十年ほどの歳月の
あいだに、わが国でもラテン・アメリカ小説に対する関心が徐々に高まった。」
 ラテン・アメリカといっても、地理的には大変広いことですし、国の成り立ちも多様で
あるわけですから、ひとくくりでいっていいのかなと思ったりしますが、南アメリカ
おけるスペイン語による文学の叢書でありました。
 この鼓さんに続いて、文章を寄せているのは、次の方々であります。
 ・ ラテンアメリカ文学のこと 川村二郎
 ・ 反射望遠鏡での管見    木島始
 ・ 「世界文学」への一道程  小海永二
 ・ 北米文学と南米文学    志村正雄
 ・ 神秘の信号        吉増剛造
 これらの文章は、普通の内容見本の推薦文とは違い、もうすこし多くの文字数があり
ます。
 川村二郎さんのものは、次のような書き出し。
ラテンアメリカの文学について多くを知るわけではない。しかしのぞいた限りでは、
すこぶる魅力的な世界だと思っている。
 そもそもは、世界文学のことなら知らないものはない篠田一士に、ボルヘスを教えら
れたのが最初である。あの知的な探求がきわまった地点に生ずる不可思議な眩暈、明る
い光のはてにひろがる闇の迷宮の印象に、いっとき、恍惚とした。」
 いっとき、恍惚として、スペイン語の初歩を学び、さらに未知の文学の山脈に分け入る
ことを願ったのだそうです。(結局ものにはならなかったとありますが。)
 ラテン・アメリカ文学に打ちのめされて、結局、スペイン語を学んだという方は、
けっこういるようであります。