1月の購入本 4

 鶴見俊輔さんの「象の消えた動物園」(編集工房ノア刊)の帯には、次のようにあり
ます。
「私の目標は、平和をめざしてもうろくするということです。」
「もうろく」という言葉は、最近の鶴見俊輔さんを理解する上での基本的な用語です。
この本のあとがきにも、もちろん登場します。
「自然の中にあらわれる信号を読み取る。それがもうろくの達人だろう
 同時代人から信号をおくられて、それを読みとく。それが、私には、もうろくのため
に、むずかしくなっている。
 この本には、どうやら、それができた(と自分では思っている)例をあつめた。」
 この本の目次には、「もうろくから未来を見る」とか「もうろくと反戦運動」という
タイトルの文章が見られますが、ともに2005年に発表されたものですから、鶴見さん
83歳頃から「もうろく」をキーワードとしているようです。
 帯に掲載されている「私の目標は、平和をめざしてもうろくするということです。」と
いう文言は、「もうろくと反戦運動」のなかにあるものでした。
ここにあります「もうろく」とは、負ばかりをイメージするものではありません。
積極的にプラスでもないのですが、「老いに伴っての知恵の深まり」といえば、これは
すこし良くいいすぎでしょうか。
「もうろくと反戦運動」からの引用です。
 「私がさらにもうろくしてゆく途中にあることを感じます。南無阿弥陀仏と言えなく
なったら、南無とだけ言えばいいときいたことがあり、戦争に反対し、平和を望むという
ことがはっきり言えなくなったら、平和のほうに目を向けるというだけでも、したいと
思っています。 
 もうろくすると、水戸黄門のテレビを見るようになるといいます。私は、そこまで達し
ていませんが、しりあがり寿原作の『真夜中の弥次さん喜多さん』という映画を見に
行きました。おなじ系列の『タイガー&ドラゴン』という連続ドラマも見ました。」
 「おなじ系列」とあるのは、どちらも宮藤官九郎が脚本を書いているからであります
ね。それにしても、これからどのようにして「もうろくを盾として、戦争に反対する
ことを続けたい。」というところにつなげていくのか。
 まったくもって鶴見流に「もうろく」するのは、たいへんなことであります。