小沢信男著作 70

 小沢信男さんの案内で佐多稲子さんの「私の東京地図」を読んでみることにいたし
ます。
 佐多稲子さんの「私の東京地図」の書き出しです。
「私の東京地図」は、三十年の長きに亘って歩いてきた道の順に、心の紙に写されて
いったものだ。だから歳月ととみに街の姿そのものが変わってゆき、私の心の地図は、
名所案内の版画のように古めかしい景色であったり、白と黒とに光沢をもたせた芸術
写真といったような風景であったりする。
 この移りゆく風景の中を私が歩いている。まだ肉のつかぬ細い足で東西も知らず
歩きだしている。」
 とてもリズムの良い書き出しだと思います。「まだ肉のつかぬ細い足」とありますが、
実にうまい表現ではないですか。