小沢信男著作 60

「あほうどりの唄」から、次に紹介するのは山本駿次朗著「明治東京名所図絵」の書評
です。この本は、「新撰東京名所図絵」という風俗画を残した「山本松谷」という画家
の足跡をたずね小説風の評伝だそうです。
 これの書評で、小沢さんは、東京について次のように書いています。
「いまと較べて、なんとあきれかえった変わりようか。掘割、木橋、瓦屋根の波。
江戸の面影をひき継ぎつつ、電柱や鉄道や煙突や、近代化の意匠を次第に添えていく
町々。それらは震災や戦火や、とりわけ高度成長時代の暴力的大変動にかき消えて、
もはや影もない。たかだか人間ひとりの寿命の七〜八十年前の風物が、こんなに縁遠い
なんて、日本近代のたよりなさの証拠みたいなものではないか。
 だが、頁をめくるほどに、あながちそうでもないこと気がつく。あんがいに変わらぬ
ものが見えてくる。地形だ。上野、浅草、向島あたりの図は、ほぼ現状と相似形に
重なりあう。」
 これに続いて、変わったものとして取り上げているものです。
「かって、この街は、都市生活を維持する労働が、ふだん街頭に見受けられた。いま
東京の街が冷たい一因は、それらがどこかに隠れてしまっているためではないか。
サラリーマンが日夜大移動するだけの、消費者ばかりがあふれているような街。
 この奇妙さ。都市の労働はどこにいったか。ということを探訪した記事をまとめて、
このほど私は『大東京二十四時間散歩』を出す。」
 とこのように、ちゃっかし自著の宣伝をしています。