死者を立たしめよ 2

 山田稔さんが、富士正晴さんの言葉として引いている「死者を立たすことにはげむ」
というのは、富士正晴さんの「軽みの死者」におさめられている「死者がたってくる」
という文章の結語によります。
 富士正晴さんの文章からの引用です。
「しかし、生きている間は生きていねばならん。時間をつぶして行かねばならん。
わたしはちょっと永く生きすぎたような気がした。
 死者が立ってくる年だなあとも漠然と考える。それは大へんいいことである。
死者をたたすことにはげもう。」(「軽みの死者」85年3月編集工房ノア、初出は
「文学界」80年1月号)
 この文章を発表したとき、富士さんは67歳であります。いまの時代に67歳で、
「私はちょっと永く生きすぎたような気がした。」なんていう人はいないであり
ましょう。
 富士さんの「軽みの死者」の巻末におかれた文章は、「死者たち」という題で、
その書き出しは、次のようになります。
「人間は長生きすればする程、肉親、友人、知人の死にめぐり合わねばならない。」

 そして山田稔さんの新刊「マビヨン通りの店」であります。

 ここで取り上げられる死者たちは、前田純敬、飯沼二郎、生島遼一多田道太郎
という人です。いずれの人も、山田さんよりも年長の学者、作家であります。