長谷川りん二郎さんの図録にある主要文献を見ても、洲之内徹さんが積極的にとりあげ
ているほかは、ほとんど論じられることがないというのがわかります。団体に属していな
くて、いわば画壇政治に無縁であったことが、このようなことになったのでしょうか。
昔の新聞夕刊文化欄には「展覧会評」がありましたが、この主要文献を見ますと、
79年11月に東京ギャラリームカイで開催の個展の評が、東京新聞と朝日新聞に掲載され
ているとありました。
当方の長谷川兄弟関係のスクラップブックに貼ってあった新聞の切り抜きには、日付
が記されていなくて、これはいつのものであったかと思っていましたが、この図録の
文献目録を見て、この疑問が氷解です。
掲載は79年11月14日、記者は米倉守さんとあります。ずいぶんと変色していますが、
30年も前のものとしてはやむを得ないでしょう。
写真では、文字を読むことはできそうもありませんので、一部を引用してみましょう。
「 知性あふれている、巧妙である、主張がある などと、感心させられたり、納得が
いったりする絵画は多いが、現代美術で、率直にいって、気持ちのよい作品に出合う
ことは少ない。寡黙、寡作、団体にも属さない長谷川潾二郎の、気持ちのよい仕事の
発表をみた。・・・
静かな楽しさは、逸楽におぼれない。表現の適度をけっして超することのない技術、
むしろこちらがおぼれすぎそうだが、対象というより、画家の生活のなかから『しな
やかさ』と『強靭』とを抽出したような作品群、それはみるものに『生気』を与えて
くれる稀有な絵画といってよい。年齢を重ねることを一種の楽しみにした七十五歳の
状況が放つ生気とみるのは、思い込みすぎだろうか。」