宮内嘉久追悼2

 ミニコミというのは、最近はどうなっているのでしょうか。当方が思い浮かべる
ミニコミというのは、自分で原稿を書いて、制作して発送までも自分でやってしまう
ようなものでありまして、当然、部数も多くて5百部というところでしょうか。
 宮内さんが「廃墟から」という著書のあとがきには、ミニコミを始めるにいたった
動機について、次のように記しています。

「何か拠るべきものがほしかった。まず何より自分自身を支えるために、芯棒になる
ものを見つけ出すことが必要だった。こうして、いろいろ思案して探りした果てに、
ぼくが自分で自分に課したのが、『宛名のない手紙』を少数の読んでもらいたいひと
たちに書いてだすということ、つまり個人誌をつくるという仕事だった。
 そのころ、ようやくぼくは、前から伝え聞いていた前田俊彦さんの個人誌<瓢鰻亭
通信>を実際に目にすることができた。タイプ印刷二つ折の小さなそれは大きな励まし
となった。
 よし、これならぼくにもできんじゃないか、と」
 不特定多数の人にメッセージを発するのではなくて、「少数のよんでもらいたい
ひとたちに」発するというのが、当方が思い浮かべるミニコミであります。手紙の
ように届けるとなると、この時代には郵便しかありません。
 このようなミニコミをつくるというのは、ずいぶんと手間がかかることであって、
ネット時代には考えられないことです。どちらがよりいいかというのは、一概にいえ
ないようにも思います。
 さて、宮内さんの具体的なミニコミ制作の作業です。
「 ノートと、切り抜きの鋏と、ファイルだけが頼りの仕事である。原稿を書き、
ひと様の文章は筆者して、割り付けには当然ながらきちんと行数計算をしなければ
ならない。タイプ印刷ではとくに、一行といわず句読点一つでも狂うと納まりがつか
なくなるおそれがあるからだ。
 ゲラは神田まで出向いて見る。・・時にタイプ活字にない字がでてきて相談。また
しばしば最小限の訂正打ち直しをしてもらわなくてはならなくなる。・・
 校了の日の夕方には、140部の刷り上がりを六本木までとどけてくれる。この早さ
がタイプ印刷の強みだ。まず検品。裏ジロや刷りムラの有無などを調べ、最終照合で
誤植を発見すれば、全部に訂正の書き込みをする。続いて竹ベラで製本(二つ折り)。
名簿の順に、ひとり一人読者のことを想いうかべながら宛名書き。時に応じて手紙を
認め同封する。・・切手貼りをすませれば作業終り、である。
 大きな袋に仕分けした封筒の束を、その日のうちに投函できると、やはりほっと
する。たいがい終電間近になっている。」
 すべて手作業であります。いまでありましたら、なんて手のかかる非効率なことを
やっているのかと一笑にふされそうなことでありますが、これこそ「小さなメディア
でありましょう。