岩波新書創刊70年記念 4

 小生がおすすめの岩波新書というと、どうやら加藤周一さんの「羊の歌」正・続に
なるようです。はっきりとしませんが、この二冊は新刊で購入したもののようです
から、1968年のことで、高校3年生の夏でありました。
 68年というのは、けっこう世情騒然という年で、あちこちで反乱の火の手が
あがっていて、そうした68年をテーマにした著作が、近年よく発表されています。
 小生は、地方のまちで高校生活を過ごしていましたので、新宿駅構内で火の手が
あがっているのは、テレビニュースで見たのみで、街を歩くと催涙ガスで眼が痛く
なったというのも、どのようなことであるのか承知していなかったのです。
 当時は、「朝日ジャーナル」という週刊誌がありましたので、それでこうした学生
反乱の背景を読むのでした。
加藤周一さんの岩波新書「羊の歌」を購入するにことになったのは、これが「朝日
ジャーナル」に連載されていて、連載寺にすこし興味をもったからと思われます。
「羊の歌」は66年10月から翌年3月まで、「続羊の歌」は、67年7月から同年
12月まで連載されたとありました。この連載は、単行本になるまでに半年ほどを
要しています。
 それにしても、これだけのものが、高校生の小遣いでも購入できる各150円で
購入できるというのが立派なことであります。いまから40年も前のことですが、
当時の150円というのは、どのくらいの重たさであったでしょう。岩波文庫
あれば☆3つということですから、そんなに無理せずにも購入できたはずであり
ます。
 はじめて読んだときには、次のような「あとがき」もすんなりと受け入れることが
できました。
「 軍国主義がほろび、日本国に言論の自由が恢復されてから、私は文筆を業として
 今日に及んだ。その間20年、私の作文の、私事にわたることは、ほとんどなかった。
 今俄に半生を顧みて思い出を綴ることになったのは、必ずしも懐旧の情がやみ
 がたかったからでないのか。私の一身のいくらか現代日本人の平均に近いことに
 思い至ったからである。」

 高校生の小生は、このあとがきの文章を読んだ時には、加藤周一さんが「現代
 日本人の平均にちかいということに」そんなに疑問をもたずに、いたのであり
ました。