LITERARY Switch

「LITERARY Switch」という雑誌は、スノッブでよかったと思うのですが、ネットで
検索したら5冊だして終わったようです。いまでもそんなに難しくなく古本で入手が
可能なようです。
 この5冊のなかで一番のおすすめは、先日から話題としている2冊目であるでしょう。
小林信彦さんの特集が目玉となっていますが、これにはもう一つの特集がありまして、
そこでは池澤夏樹さんがとりあげられているのでした。
 91年ということで、みすずから「読書癖」1、2を刊行したころのようです。
 池澤夏樹さんは、小生にとっては小説家である以上に、小説の読み上手でありまして、
彼が推薦する小説リストは大変気になるタイトルがならんでいるのでした。このような
選書が、その十数年後に、池澤さんが責任編集で文学全集に結実するのでありますが、
91年当時にリストを見たときには、そんなことになろうとは思ってもみませんでした。
 このスイッチ文芸版にのっているリストは「海図と航海日誌(特別篇)」の
「寄港地一覧」というものです。
「 自分がかって読んだ本の中で、特に強い影響や印象を残したものを選びだして
一覧表にするというアイデアは別段珍しいものではない。少しは真剣に読書をして
生きてきた者ならば誰でも試みることができるし、気のおけない仲間と酒の席などで
そういう表を作って楽しむこともあるだろう。」
このような書き出しではじまるエッセイの最後には、選びだした一覧表がのって
いるのですが、その作品ごとにコメントがついているのが楽しい。
「 福永武彦は『風土』をとり、力の入りすぎた『死の島』を捨てて、読みやすい
『風のかたみ』を取る。・・・作家と読者として同時進行で育ってきた関係だと、
どうも最初に読んで感激したものの印象が圧倒的に強くて、その人があとからどんな
傑作を書いてもそれにおよばないという奇妙な現象がおこる。・・丸谷才一は未だに
『笹まくら』の細部から逃れられないし、辻邦生ならば『夏の砦』ということになる。
 つまり、作家にとって処女作にすべてあるというテーゼはそのまま読者の方にも
最初に読んだものに呪縛されるという形で効果を及ぼすのだ。
 同時代の人がその後から発表する大作や傑作はそれぞれ楽しく読むけれども、なか 
なか最初の強い印象をこえはしない。」

 一番、池澤らしい一冊は、次のところ。
 「 最後に、神沢利子の『流れのほとり』というあまり人が知らない傑作をいれておく。
子供を描いた小説としてこんなに暖かく、豊かで、ふくよかなものを他に知らない。
他人のノスタルジアに乗るというのは読者の喜びの一つだ。」
この「寄港地一覧」は、いまでは白水社Uブックスで容易にみることができるはずです。