「出版と社会」

出版と社会

出版と社会

  先日の朝日新聞読書欄に、「出版と社会」小尾俊人著がとりあげられていました。
「 豊富な文献を通して語る大正の終わりから、戦争直前までの出版興亡史」という
のが、この紹介文の書き出しです。小高賢歌人)という人が、この本を紹介して
いるのですが、この小高賢という人は、どういうひとなのでしょうか。
「平易で、おもしろく、しかも読み応えのある昭和出版史。やや高価なのが気になるが、
一度二度、酒を控えても座右においていい一冊ではないか。」とありました。
9975円というのが、「やや高価」であるかどうかは見解の別れるところでありま
しょう。小生は、今年の9月に、この本を手にして、値段をみて買うことができなかった
ことから、「そうとうに高価」と思うのです。
 それよりも、この紹介文で物足りないのは、「小尾俊人」という大編集者への言及が
まったくないことであります。どこかで、戦後を代表する編集者の一人であるくらい
書いても、まったく問題なしでしょう。
 小尾さんは、現在、政治家を家業にしている感のある「信州」の羽田家がやっていた
羽田書店で、編集者をつとめ、戦争後にみすず書房の立ち上げに参加して、編集代表と
して、みすずを切り盛りしていた人です。
 小尾さんの「本が生まれるまで」94年 築地書館には、次のような文章があります。
「 私が出版界ですごした年月は50年を超えているが、もっとも親しく、日常的で、
永続的な関係をもったのは印刷所である。印刷機がなければ『ホン』というものは
生まれない。・・・・・
 敗戦、そして世界が一新し、みすず書房の出立となった。そうして精興社との新しい
共同の仕事が始まった。このときから、青木勇さんとのつきあいがはじまったわけで
ある。なつかしいようなホロ苦いような思い出がさまざまあるが、私にとっての精興社は、
何よりも仕事の人、職人としての青木さんである。それも『精興社書体の活字』をめぐる
青木さんが目に浮かぶ。
 それは誰も知るように君塚樹石さんと白井赫太郎さんのコンビ、この卓抜な文字設計家と 
精興社創業の人に共通する『美しさの探求』から生まれたものであり、青木さんはその実際
的な協力者として不可欠な役割を果たした。
 この活字で印刷された印刷物は世の注目を集め、社会的名声と経済的にもプラスヲモ加重
した。」

 小尾さんは、いかにも職人さんという感じです。あとがきには、「私はいわば偶然に
出版者となった。場合によっては植字工になったかも知れず、印刷工になったかも知れ
ない。文学が好きだったからである。自分の職業ときめたからには、それをできるだけ
満足のいくものにしようと思った。」
 戦後というのは、このような出版人を生んだのであります。