90年と「黄犬本」

 四方田犬彦さんの本で一番最初に購入したのは「黄犬本」でしたが、これが
刊行となったのは、奥付けによると91年6月、収録の文章が書かれたのは、
89年から90年でした。
 89年から90年というのは、どういう時代であったのかと、「黄犬本」の
前書きで、四方田さんは、次のように書いています。

「 昭和天皇手塚治虫が死に、エイズが猖獗をきわめた。ベルリンの壁
崩れてあれよあれよという間にドイツが統一され、東欧で社会主義国が次々と
消滅するかたわらで天安門事件が生じ・・・・これでUFOが本格的に到来していれば
もう完璧なわけだが、この後イラククウェートに侵攻し、湾岸戦争が起きて
しまった。21世紀の高校生たちは世界史の授業で大変な思いをするだろうな。
十九世紀的世界というのが真に終焉を迎えたのは第一次世界大戦が勃発した
1914年であったというのが文化史的には常識であるが、ひょっとしてあとから
回顧してみれば、二十世紀というやつもこのあたりで切れ目を迎えているのかも
いれない。」

 そうか昭和天皇がなくなったのは昭和64年1月であったか、天皇の死亡が
近くなってから、毎日のようにテレビニュースで、本日は下血が何ミリであった
とか報道されていたのを思い出します。このXデイが近くなってからは、書籍の
奥付けの発行年月日も西暦表示になって、昭和64年1月以降に予定されていた
書籍は、架空の日付となるのを怖れて、急に西暦を採用するようになっていた
のです。小生が購入したもので昭和64年1月7日以降の発行日付をもつ本という
ものはいくらもなくて、河出文庫長靴をはいた猫」(澁澤龍彦訳)などは、
その数少ない一冊です。
 ちょうどXディの時は、東京に住んでおりましたが、早朝から自宅の上空を
ヘリコプターがとびかってうるさかったのを覚えております。(あとへりが
とびかってうるさいなとおもったのは、目黒の教会であった当時のスターの
結婚式の時のことでしたが、あれはだれのであったか。)
 このときから、たった16年しかたっていないのに、ずいぶんと昔のことの
ように思えてしまいます。それだけいろいろなことがあったということであり
ましょう。
 エイズが猖獗をきわめたとあるのは、先進国から途上国に広がりをみせて、
今もかわらずであります。東欧では社会主義国が消滅して、旧ユーゴでは、
分裂した国家間において民族紛争が続いています。イラククウェートに侵攻した
あと、イラクの国家体制を倒すためにUSAが軍隊を送り込んで、撤退できなく
なっているなんて、この時代には予測することができなかったか。
 この時代から一番進化したのは、コンピュータとネット社会でありまして、
コンピュータ社会の到来はいわれていましたが、インターネットがこのように
普及するとは思っていませんでしたね。