荒川洋治のお仕事

 詩人の荒川洋治さんは、最近は本についてのエッセイをたくさん発表されていて、
気になる存在となっています。みすずからでているものは、装幀が上品なせいも
ありまして、荒川さんについても端正な人であるというような感じを受けることです。
みすずの本は、いまだに入手できていないのですが、そのうちどこかで安く入手を
こころがけましょう。
 小生と比較的年齢の近い詩人には荒川さんと平出隆さんがいらして、なんとなく
イメージがかぶってしまいます。詩を良く読んでいるひとには、そのようなことは
ないのでしょうが、一度すりこみがされてしまうと、なかなかこのような思いこみ
から抜けることができません。いまも、荒川さんはどっちであったろうかとネットで
検索をしたところです。
 今回の検索で、二人の違いをきちんと理解できたでしょうかね。
 平出さんは、野球とドナルド・エバンスがキーワードでありまして、荒川さんは
水駅、紫陽社が小生にとってのキーワードとなるようです。
「水駅」というのは、荒川さんの初期詩集の一冊で、同世代の詩人で肌合いのあう
詩人はいないだろうかと思って手にしたものです。いつまでも谷川俊太郎飯島耕一では
ないよなと思っていたころのことです。「水駅」は普及版で購入をして、自宅のどこかに
あるはずです。青い表紙で、ビニールのカ透明カバーがかかっているのでした。
 「紫陽社」というのは、荒川さんが個人的にやっている詩書専門の出版社で、職業と
してではなく継続してやっていたものです。

 そのような荒川さんは、ほとんどふで一本の生活のようでありますから、ずいぶんと
いろいろな仕事をしているようです。小生が本日にブックオフへといって百円棚をみて
おりましたら、そこに「ボクのマンスリー・ショック」(新潮文庫)という荒川さんの
本がありました。荒川さんに、このような分野の仕事があったとは知りませんでしたし、
まったく意外でありました。この本は、「アサヒ芸能」に連載したルポをまとめた元版に、
鳩よに掲載したものを追加して文庫化したものだそうです。(元版は昭和58年、文庫は
昭和60年)
 もともとの掲載誌が「アサヒ芸能」でありますからして、けっしてお上品な話題では
なしですが、これをどのようにいやらしく書かないかが詩人の腕のみせどころでしょうか。
この文庫のカバーには、以下のような文言があります。
「 詩人の震える感性が、ショックを求めて全国各地、月に一度のマンスリー・ルポ、
おのずと足は女性のもとへ。トルコ、SM、ストリップに始まり、過疎の村を経て、
再びストリップで幕を閉じる22本のささやかな旅・・・・。
 刹那の旅人は、そこで何に出会ったか、何を見たか、何を感じたのか。言葉はじける、
異色のヒューマン・ルポルタージュ!」
 もちろん、このなかでのメインは風俗の女性たちでありますので、本のはなしはさしみの
つま以下でありまして、ほとんど登場しません。それでも、訪れた仙台に関連してのところで、
次のようなくだりがあるのでした。
「いい古本やとだめな古本やを見分けるポイントは、新刊のホカホかの雑誌(一般流通に
のらないユニークなもの)を独自にどれだけ仕入れているかだと思っている。いくら
ねうちものの初版本をずらっとならべていてもそれだけでは二流。一流の古本やはいま
注目を集めている同人誌なり、一般流通にのらない書籍をちゃんと置いているものなのだ。
そこで格が決まる。過去と未来のタカラモノを見極めるインテリジェンスを備えてこそ、
ほんものなのだ。」
 
 当時の「アサヒ芸能」の読者が、連載でこのようなところを読んで、どう反応したかは
知りたいことですが、書きたいことを書けない荒川さんのカタルシスであったのでしょうか。