講談社文芸文庫が発刊したときにアンケートかなにかがありまして、それに
こたえると抽選でテレホンカードをプレゼントというものでした。ほんとに
出始めのころでしょう。そのときに運良く、文芸文庫オリジナルのテレホン
カードを入手することができたのでした。文芸文庫の装幀をしている菊池さんの
デザインになるもので、鯨のおびれがのぞいているものですが、もったいなくて
いまにいたるまで未使用であります。
講談社のメンツにかけて少々の赤字では弱音をはかないというのが文芸文庫の
コンセプトと聞いておりましたが、初期には中野重治、花田清輝、長谷川四郎
いう人たちのものがずらっとそろっていて、圧巻でありました。井伏鱒二なども
珍しいところがはいって、これがあれば、高価な全集は購入は断念してもいいかと
思わせるものになっていました。
そうした初期とくらべると、最近は同じく売れ筋ではないものを新刊でだして
いるのではありましょうが、ラインナップに往年の輝きがない(というか、小生の
関心領域のものがすくない)といえるでしょう。
今月の新刊は、本日の新聞に広告がでていましたが、富士正晴「贋・久坂葉子伝」が
入りましたです。これは以前にも文庫になったことがありましたので、古くからの
ファンでありましたら、その文庫で持っているかたもいるでしょう。この広告を
みましたら、解説は「山田稔」さんとありますので、この解説に惹かれて購入と
いうひともいるのでしょう。値段は1890円とのことで、解説だけのために
買うのはためらわれますね。
小生が、学生であった70年代前半には、人文書院からでていた版が一番流通して
いまして、これが元版のように思ってしまいますが、赤っぽい表紙の「ちくま書房版」が
最初でした。それから、いくつの版が刊行されたものか、富士正晴のものとしては、
まだ入手がしやすい作品ではないでしょうか。
富士さんの作品で、一番最初に購入したのは同じく人文書院からでた「紙魚の退屈」で
ありますが、このへんのエッセイを軸に編集したものを読むことができるようにした
ほうが、富士さんの読者は増えるように思うのですが、なかなかそうした仕掛けの
ものはでてきませんですね。
赤字なにするものぞの「講談社文芸文庫」でありますからして、富士正晴の随筆集を
数冊にまとめてだしてもらうことを期待するのでした。