夏の読書の記憶

 夏の読書というとどのようなものを思い浮かべるでしょうね。
ずっとむかしの朝日新聞のコラムに吉田秀和さんが、夏にはプルーストを読む
ようにしているとか書いてあるのをみたことがありました。その昔は、夏は
音楽シーズンがオフとなるので、まとまった休みを利用してすこし長い小説を
楽しむ(または読み返す)。そうしたときに手にするのがプルーストという
ような文章ではなかったでしょうか。(これまた記憶によって書いておりまして、
全集を確認したら、まったくちがったはなしかもしれません。)
 岩波「図書」8月号の広告ページをみておりましたら、「手のひらの大宇宙」と
あって、岩波美装ケースセットが取り上げられていました。セット販売でケースに
はいっているのは、4冊以上のもので「平家物語」とか「シンボル形式の哲学」と
いうものも美装ケースいりセットがあるのですね。
 この広告にあるセットもので、小生がセットで購入したのは「南総里見八犬伝
のみでありまして、そのほかの「ジャン・クリストフ」「千一夜物語」「三国誌」
などは、すべてばらで購入した物でした。「千一夜」は全13冊とありますので、
同じ翻訳ではありますが、まったく各冊の厚さがことなるのでしょう。
 しかし、このなかに夏の読書の記憶につながるようなものはないことです。
 ひょっとして冬休みほど、夏休みには本を読んでいなかったのかもしれません。 
 新刊本屋にいきますと集英社文庫がナツイチという文庫キャンペーンをしていて
蒼井優さんの特別カバーをつけた「銀河鉄道の夜」「こころ」「友情」なんてのが、
そのカバーほしさにおじさんたちにかわれているようです。これは夏の読書の記憶
ではなく、夏の購入書の記憶に残るのでしょう。
 小生の住んでいるところがあまり暑くならないせいもあって、夏に大汗をかきながら
長編小説と格闘したなという記憶がないだけかもしれません。
夏に帰省をしているときに読んだ岩波文庫版「あしながおじさん」には、主人公が
むぎわら帽子をかぶってむしとり網をもった後ろ姿のイラストがはいっていて、
夏の読書の記憶というと、いなかで過ごした夏の、岩波文庫あしながおじさん」の
ことが浮かんできたのでした。