田村義也さんのこだわり

 田村義也さんの「ゆの字ものがたり」をねたにしますと、
数日は、このブログを更新することができそうです。
 田村さんは、岩波の「世界」編集長でありましたから、
編集者としても一流の人でした。
奥さんのあとがきには、「編集者は黒衣である」が口癖の
ようであったとかかれています。黒衣ということは、めだ
たないということですから、目立つ編集者というのは、
田村さんとは流儀があわないということでしょうか。
 この「ゆの字」では本づくりについてふれていますが、
「戦前の造本・装丁の見事さ、力強さ、芸術性は、今日の
本よりもはるかに優れている。大量生産、大量出版でなかった
時代のほうが、いかにも本らしい本がつくられている。
編集者も印刷製本関係の職人たちも、腕も熱意もあったのでは
ないだろうか。何よりも、今日とはちがって、本にあたたかさや、
ぬくもりがあった。」(1982年)とあります。
 むかしの本というのは、またいだりしたら、親から叱られ
ましたものね。それと比べると、最近の本はすっかり消費財
なってしまっています。どう考えても、文学書がコミックよりも
安いというのはなっとくできないのですが、これが悪貨は
良貨を駆逐するということでしょうか。
「 今日の日本でもっとも美しい活字書体をつくり、きれいな
活版印刷をするといわれる精興社青梅工場の現場を見せてもらったが、
刷り上がってくる印刷物の見事さは感動的ですらあった。
この驚くべき繊細な明朝体の活字は、君塚樹石という人が彫った
種字であって、君塚氏は昭和3年以降、営々としてこの書体を
つくりあげてきた、という。」
 このような文章を読みましたら、ちょっと前まで
本とコンピュータ」に連載をしていた「印刷に恋して」という
本を手にしてみたくなります。この作者は松田哲夫さんであり
ますが、このひとは、けっして黒衣ではおわらない有能な
編集者です。新潮社からでたこの「本に恋して」とあわせて
本好きにはたまらないシリーズであります。