勝負事の世界 2

 本日は電車にのって移動をしていましたが、車中では昨日に引き続きで新潮文庫
「赦す人」を読んでいました。

赦す人: 団鬼六伝 (新潮文庫)

赦す人: 団鬼六伝 (新潮文庫)

 団鬼六さんの評伝でありますが、生前のうちにご本人に取材を重ねて一冊となった
ものでありますので、これから団鬼六さんについて、なにかを書こうという人にとって
は必読の一冊となりますでしょう。
 作者と団鬼六さんは親子ほどの年齢差がありますので、作者は自分の親と重ねて団
さんを見て、医師の親に反対されて文系に進んだ自分のことを作中に織り込んでいき
ます。これが作品に親しみをもたらすようになっています。(ちょっと違うのですが、
対象となる人物と書いている自分をクロスさせるというのは、足立巻一さんの「やち
また」の手法に近いものを感じます。)
 作者である大崎さんの家庭環境についてのところから引用です。
「私の父は国立大学病院に勤める医者でその父親もまた二人の兄弟もすべて医者、
母の兄も医者で、私の兄も医学部へ進学していた。地方都市によくあるパターンの
医者一族である。私が東京の大学の文系学部を受験すると話したら父はその言葉の意味
がわからずポカンと口を開けたままふさがらなくなってしまった。」
 作者は中学生のときに将来は小説家になりたいと思ったとのことですから、なんとか
その道へと方向付けをしたいと思ったのでしょう。団鬼六さんの父親でありましたら、
そんなもんにならんと「相場師」になれといったでしょうし、作者の父は、医者以外に
なることは認めないということでしょう。
 大崎さんの場合は、文系学部に進むことで、ひとつの目的をはたしたようになり、
あれほど書きたいと思っていた小説が、さっぱり書くことができなくて、デカダン
生活に陥ったといいます。
 それが生活経験の不足を補うための夜の街彷徨で、そうしたなか真夜中の新宿の場末
バーで、偶然に将棋と出会いそれからは365日、新宿将棋センターへ通う日々がはじ
まるとありました。
 なにが幸いとなるかわからないもので、ここのところでの修行が、のちに将棋連盟の
雑誌編集部に採用されることになり、早世した棋士について書いた作品でデビューする
ことになるのですから、人の生き方は、どこでどうかわっていくのかわからないことで
あります。
 それにしても、同じ勝負事でも囲碁と将棋では、どうしてこうも人物の面白さが違う
のでありましょう。囲碁棋士で破滅型といえば、そんなに多くはないように思うの
でありますが(すぐに思い浮かぶのは藤沢秀行さんでありますね。)、将棋のほうは、
枚挙にいとまなしでありましょう。
 最近は羽生さんのような大天才がでたせいもありまして、奇人はそう目立ちませんが
逸話が多いのは将棋界のほうであるようです。