瀬戸内寂聴さんの「奇縁まんだら」は、谷崎潤一郎をとりあげたあと、佐藤春夫へと
話題がつながっていきます。谷崎のところでは、松子夫人のことがクローズアップされる
のでありますが、佐藤春夫のところでは谷崎夫人であった千代さんにスポットがあたり、
まさに奇縁というか女縁まんだらであります。佐藤、谷崎について、瀬戸内さんが作品を
残しているということを、これを見てはじめてしりました。
ところで、文庫本となった「奇縁まんだら」の表紙を飾っているのはどなたの肖像で
ありましょう。
- 作者: 瀬戸内寂聴
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/10/07
- メディア: 文庫
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ると絞りきれません。背後には棟方志功の版画が掲げられていて、21人のなかでいく
と、大谷崎が一番らしいのですが、ちょっと雰囲気が違うようにも思います。この表紙絵
には横尾さんによって、「After Yasuda」と書き添えられています。
ということで検索をかけてみましたら、ある方のページに、次のようにありました。
「3回目の絵の肖像の方は、昭和39年春、安田靫彦が書いたもの、棟方志功の版画につい
ては1962年発行の『瘋癲老人日記』を見ても見当たらなかった。それで再び『新潮日本
文学アルバム谷崎潤一郎』を見たら、見つかった。同じ棟方志功の版画でも、『鍵』の方
だった。千萬子さんにとらわれて勘違いしてしまった。」
まるで、見慣れた大谷崎と違った印象を受けるのは、これが安田靫彦の肖像画が元に
なっていて、これを横尾さんが模しているからでありました。それで「After Yasuda」
なのですね。
「柔和な顔付をした町のご隠居さんふう」というのが、瀬戸内さんが面会したときの
大谷崎の印象ですが、それに一番近いというのが、この安田画伯が描いた肖像がとなる
のでしょうか。
そういえば、林忠彦さんの「文士の時代」には、松子夫人の次のことばが引用されて
いました。
「うちの谷崎を撮った写真はたくさんありますが、どれも苦虫をかみつぶしたような
きびしい顔で・・。笑っている写真というのは、林さんが撮ってくれた、この写真の
ほかにないから、たいへん大事にしています。」
この文庫の表紙が、この大谷崎の肖像となるにあたっては、松子夫人のこのような
思いもはいったのでしょうか。