ダンボールこそ積まれてないが

 このところ買ったり、借りたり、もらったりした本が食卓テーブルの周りに

おかれていて、ひどい状態になっています。ダンボール箱に入れて積まれて

こそないのですが、山を低くしようとしましたら、床の広い範囲に展開して

歩くところがなくなりそうです。まったくいい加減にしなさいです。

 すぐに手にしないものから元の場所に戻していかなくてはいけないので

ありますが、椅子に座っているところから、手を伸ばせばとれるというのは

いいのでありますね。

 山田稔さん、福田紀一さん、小沢信男さんの本とか、その周辺のものや

斎藤真理子さんと韓国系のもの、阪田寛夫さんについてのものなどがそれ

ぞれ小さな山をなしています。

 本日はそのなかから、増田みず子さんの「小説」をとりだして、これの開い

ています。

 28歳でデビューして順調に作家活動をしていたのが50歳の頃に、作品が

書けなくなって、小説の注文も途絶えたとのことです。

「こうやって作家生活って終わるんだと思って、息をひそめてました。書かない

生活が続いても、別段、心に変化はありません。書きたいことが書けなかった

のは同じですから。」

 こうした書かない日々には、短大で非常勤で小説を書く講座を持っていた

とのことです。

 そうした書かない生活が「三年くらいたったとき、個人で雑誌を出している

という方から、長めのエッセイの注文をいただきました。」とあります。

「四百字付け原稿用紙換算で十五枚分とのことでした。それだけの量なら、

エッセイでなく、小説が書きたい、と咄嗟に思いました。・・

でも、結果、小説のようなエッセイを、書くことになりました。エッセイのような

小説かもしれないけど、私には区別がつきません。」

 この個人で雑誌を出している方が、どのような方であるのか気になることで

ありますね。この雑誌の主宰されているのは、Fさんという方で、雑誌は「始更」

というのだそうです。検索をかけてみましたら、なるほど「始更」という雑誌は

ありまして、今も継続して発行されていますね。

 そして、この雑誌から声を書けられたのが、増田さんが小説をまた書くことが

できるようになったきっかけとなりました。

「ほんとに好きなように書けました。自分の好きな書き方がやっとわかった。

自分以外に誰も読まない、と思ったら、はじめて、嫌いな人や、好きな人を、一人

ずつ、じっと見つめる、自分の視線に気づきました。その視線の先にある人と

光景をスケッチしながら、自分はこんなに、人のことを気にして生きてきたんだ

と、思って、すごく緊張しました。」

 ここに引用したのは、2020年に「始更」に発表した、その名も「小説」という

作品でありまして、なんとなく70歳を過ぎて、初めて小説を書いた人のものの

ようであることです。

 小説家として新しい書き方を見つけることができた喜びが伝わってくること

でして、このような発表媒体を持つことができたのが何よりです。

 そういえば、このエッセイのような小説というのは、山田稔さんの流儀でも

ありまして、山田さんは「海鳴り」とか「ぽかん」のような何をどのように書いて

もよろしい媒体を、もう何年も前からホームグラウンドとしているのでありまし

た。

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