本日の新聞TV欄を見ておりましたら、「デカ盛りハンター」というタイトル
が目に入りました。大食いの番組でして、本日はうどん11キロを食するのだ
そうです。ほとんど誰も傷つけることのない大食い番組でありまして、この手
の番組のさきがけは、TV東京の「TVチャンピョン」であったでしょうか。
このところ時間が空いているときに手にしている種村季弘さんの「書物漫
遊記」のなかに「大食のすすめ」という章がありです。最終的には武田百合
子さんの「富士日記」が話題になっていくのですが、書き出しは大食漢の紹介
からとなります。
「『怪盗軍団』という戦後のドイツを舞台にした映画に、フリッツという名の、
見たところ体重二百キロはありそうな超大食漢が登場してくる。この男が
夜な夜なベルリンの一流レストランに現れては、豚の丸焼きだの、骨付き
ステーキだのをもりもり平らげ、おあとはチーズ、フルーツと蜿蜒と食い続ける
のである。レストラン側はフリッツが店にきてくれれば店の格が一遍に上がる
ので大歓迎と見え、お代がロハはむろんのこと、どうやらいくらかのリベートさ
えつくらしい。
こんなのを見ていると、無芸大食というのは嘘だという気がしてくる。食う
ことを見せて芸にしている人間もこの世にはいるらしいのだ。わが国にもこれに
近い人物が現に生存している。」
この本の元版が刊行されたのは1979年でありますが、書かれたのは1977年
くらいでありますので、もちろん「TVチャンピョン」での放送は、まだありませんでし
た。
ある時間内にどれだけ食べることができるかを競うというのは、日本でありまし
たら、わんこそばなどの例が思い浮かぶことです。
当方が最初に、このような大食いの大会があると知ったのは、1973年に刊行と
なった小沢信男さんの「若きマチュウの悩み」に収録の「絵本盗賊記」という小説
においてでした。
「文化十四年丁丑三月下浣、両国柳橋の名だたる料理茶屋万八楼にて、大飲、
大食を競いあう腹自慢大会が四日間にわたって催された。
初日が、蕎麦の部。
二日目が大甘党の菓子の部。
三日目が、大喰らい極め付きの飯の部。
そして四日目の千秋楽が、メーン・エベントの酒の部だった。
いまに伝わるその記録をみると、よくもまあたいした胃袋たちをあつめたもので、
快挙といおうか奇観といおうか、生来小食の筆者などは、想像するに胸がつかえる。」
この大会は、単に食べた量を競うのではなく、食べっぷりや食べたあとの態度など
も評価の対象となって、総合評価だったとのことです。
ちなみに甘党の喰いくらべでは、次のような成績が上位だったとのこと。
「饅頭五十、羊羹七棹、薄皮餅三十、茶十九杯。」
この小説を最初に読んだときには、そんなばかなと思ったのでありますが、
TVチャンピョンなどで大食いの人を見ていたら、実在することを知ったのであります
ね。画期的な番組であったことで。