一度返却しよう

 図書館から借りている本で、一番手元に長くあるのは昨年の8月から借り

続けているものであります。いくらなんでも一度返してしまうことにしようかと

思うことで。

 どこかで安価で見つけることができれば、購入するのでありますが、なぜか

この本は品薄であるようで、そこそこの値段がしています。文庫にでもなって

くれればいいのに、なかなかこういう本は文庫にはならないでしょうね。

 昨年の7月に突発性難聴で入院生活を送ったときに持参したのが、この

本の後編でありまして、それが面白かったので、それの前編を図書館から

借りて読むことになったわけです。

 ということで、明日に図書館に返却しようと思っているのは四方田犬彦さん

の「人、中年に到る」であります。

 この本は、2010年の書き下ろしで刊行で、このときに四方田さんは57歳とあり

です。その前年の定期検診で、脳の前頭葉に6センチの腫瘍ができていて、それを

除去する手術を受けたのですが、事前の説明では厳しいことを言われ、かなりの

ショックを受けたとあります。

 幸いにして腫瘍は良性で、摘出手術もうまくいって失明することもなかったので

すが、再発の不安などで、退院してからもは激しい感情の動揺に見舞われたとの

ことです。

 ということで、昔から好きであったモンテーニュの「エセー」のようなジャンルの本

を書いてみたいと思って、集中して自分のことについて書いてみたのだそうです。

 この本から13年後に同様な手法で、「いまだ人生を語らず」を上梓して、そちらを

入院生活で、先に読むことになりました。

 この二冊は、エッセイストとしての四方田さんの本領発揮でありまして、ほんと

心に沁みることであります。

 四方田さんは、「人、中年に到る」のあとがきで、次のように書いています。

「もしこんなことが実現できるならばの話だけど、今から二十年後に77歳になっ

たとき、この本を読み直してみて、頁の余白に感想を書き込んでみたいという

気持ちがないわけでもない。モンテーニュは生涯に二度にわたってそうした書き

込みと加筆を行った。現在の読者としてそれを読むことはとても興味深い。」

 ここに引用したくだりを目にして、これが最近手にした海老坂武さんの「生き

るということ」につながっていくことに気がつきましたです。この本もまた図書館

から借りているものです。

「『エセー』とはいかなる書物か。・・・

 わたしを描くこと、しかしそれは何のためか。モンテーニュは言う、親族や友人

たちに、わたしという人間をよく知ってもらうために、と。」

 海老坂さんのはじめににありました。海老坂さんは今年90歳で、人生を語る

に十分な年齢であります。