この機会を逃すと

 半世紀をこえて本を買っていますと、なかにはまったく読んでいないという

ものもたくさんありまして、このまますこしも読むことなしに処分するという

わけにはいかないことと思うことです。

 本日の新聞で取り上げられていた本は、そうした本の一冊でありまして、

当方は新刊ででてすぐに購入しておりますので、なんと未読歴は40年となります。

あの本は、たしかわかりやすいところにしまってあったはずと思って、扉をあけ

てみましたら、そこにありましたです。

 今はちくま学芸文庫にはいっている「都市空間のなかの文学」でありますが、

当方は大枚をはたいて、元版を買っていたのですね。1982年のことになりま

す。

 すでに子どもが二人もいて、けっして生活に余裕があったわけでもないのに、

ずいぶんと本を買わせてもらったことと、いまさらに感謝することにです。この

年に買ったものとしては藤森照信さんの「明治の東京計画」もありましたが、

ずいぶんと刺激的な本がでた年でありました。

 前田愛さんは、「近代読者の成立」が話題となって、それから買うだけは買って

いたのですが、これは山口昌男さんと近しいことも影響していました。

山口さんは前田さんについて、どんなことを書いていたかなと、とりあえず索引の

ある「山口昌男ラビリンス」であたってみることにです。

 なるほど山口さんは、ラビリンスに前田さんの追悼文を寄せていたのを知ること

になりです。そのほかではニューヨークでのシンポジウムでの前田さんに触れてい

ます。

「私のあと、前田愛氏が戦後日本の住居の変化と生活空間観念の変質を後藤明生

の小説作品にそって分析し、なかなか面白く反応もよかった。」

 このシンポジウムは1982年10月とありますので、「都市空間のなかの文学」

が刊行となるすこし前のことですね。

そうか後藤明生にも言及していたかと思って「都市空間のなかの文学」の作品を見ま

したら、「空間の文学へ 都市と内向の世代」のなかで取り上げていましたです。

 ちょっと手ごわそうですが、これを機会に「空間の文学へ」をのぞいてみること

にいたしましょう。40年寝かせておいたことが吉と出るか凶とでるかであります

ね。